第35話 子犬は話せません
リナが、エストキラと子犬を交互に見つめた。
「もしかして、子犬と本当に会話していたの?」
「だからそう言ってるじゃないか」
「いや、普通おかしいと思うでしょう!」
「うん? どこが?」
「どこって、声が聞こえるんでしょう!?」
エストキラは、そうだと頷いた。
「なんで、リナに聞こえないんだろうね」
「え……そこ」
『なるほど。君は犬さえ知らないようだな』
「……うん。見たのも初めて。結構小さいね」
「子犬だからでしょう」
『姿を小さくしているだけだ! 君は、私の本来の大きさを目にしているだろう』
”本来の大きさ? そういえば僕より大きく見えたけど、あれが本来の姿なのか。なぜ小さくなったんだろう?”
「そうね。キラがそういうならアルなんてどう? 最初と最後の文字をとって」
『いいのではないか』
「いいって」
「アル。なんてかわいいんでしょう」
リナは、アルに頬ずりをする。
『まてまて。そんなにくっつくなぁ~』
”楽しそうだな。リナの元気が出てよかった。あ……”
地面に転がったコンパスを発見して、拾い上げた。
「あ、そうだったわ。ごめんなさい。落としてしまって」
「うん。これ、僕が持つよ。悪いけどボード持ってくれる?」
「いいけど、MP大丈夫?」
「うん。平気。じゃ進もうか」
リナがリュックを背負う。
「……アルはどうしよう」
「きっとついてくるよ」
「でも草が茂っていて歩くの大変そうだわ」
『私は、大丈夫だ』
「ほら、アルも大丈夫って言ってるし」
「もうそんな事言って! かわいそうじゃない」
「………」
『………』
”やっぱり声が聞こえるの信じてないじゃないか”
「はぁ。じゃ僕が……」
「私が抱っこするね」
「え? いや無理だよね。ボードどうするの?」
「キラが持って。コンパスは私が持つから。それなら……」
「ダメ! 今日は僕がコンパスを持つよ」
『あぁわかった! コンパスは私が持つ』
「え?」
「えって何よ」
「えーと、アルが持つって言っているけど」
「もうまた、そんな事を言って……」
リナが疑っていると、ひょいとエストキラが持つコンパスをアルが奪い取った。
「あ……」
「………」
『これで解決だ』
「咥えたまま話せるなんて器用だね」
「なんて賢いんでしょう!」
リナが、コンパスを咥えたアルを抱っこするとマップが展開される。
「キラが入れたの?」
「きっと、アルだと思う。僕はまだ何もしてないよ」
「もう、またまた」
「………」
”なんで、僕の言う事を信じてくれないんだ”
結局は、ボードはエストキラがもつ事になり、エストキラはちょっとムッとしながらも二人は手を繋いで森を進んでいった。
夕暮れ時になった時に、森を抜けたと思ったら崖だ。ゴーと流れが凄い川の音が谷から聞こえ、その向こう側にまた森が見えた。
「うそ。行き止まり?」
「うーん。そうみたいね。これ川だったのね」
二人ともマップを見たのは初めてだった。
『何、気づいていなかったのか!』
アルが驚く。
「どうしよう、キラ」
「方法がないこともないけど……」
「もしかして、そのボードで飛ぶ気?」
そうだとエストキラが頷いた。
「嫌よ。それに無理に決まっているわ。風が凄いじゃない。絶対に落ちるわよ」
リナの言う通り、谷からは風が吹き上げている。
「だからボードから落ちない方法があるの」
「私達が、だ、抱き合うとか?」
リナが顔を赤らめ言う。
「そういうんじゃなくて、足を固定するの」
「どうやって?」
「魔法陣で……」
「は? あのね、どこで聞いたか知らないけど、そう簡単にできないのよ」
リナの言葉に、そうだねとエストキラが頷く。
「でも僕には出来るから。ちょっとボードに乗ってくれる?」
「……はぁ。し、仕方ないわね。出来たらボードで渡ってあげるわ」
エストキラが乗るボードにリラも乗った。
「足は、そこで楽?」
エストキラに抱きしめられたリナは、顔を真っ赤にしながら頷く。
「じゃ、ちょっとそのままね」
エストキラは、ボードから降りリナの右靴を抑えた。
「ちょっと何をするのよ」
「大丈夫。靴脱いでもらっていい?」
「………」
仕方なくリナは、右の靴を脱いだ。
場所をずらさない様に靴の先を付けたまま靴を上げる。そして、靴とボードの間に指を入れた。
「よし、ここら辺かな」
エストキラは、ボードに魔法陣を描いていく。自分の靴を固定する時に描いた魔法陣だ。実は、リナが履く右靴の裏にはすでに魔法陣を描いておいたのだ。
「出来た……」
「うそ。本当に描いたの?」
「うん。これでぴったりくっつくよ。靴はね。離す時は、解除って言えばいいから」
靴を渡しながらエストキラは説明した。
「ここを超えてそのまま出来るだけ飛んで移動したいんだけどいい?」
「………」
驚いて頷く事しかできないリナだった。
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