第2話 最悪かもしれない

 「ただいま~」

 「おかえり。そんなしけた顔してないの。次がまだあるでしょう」


 家に帰ると、エストキラの母親がそう言った。


 「あ、いや、スキルは授かったんだ」

 「まあ、ではなぜそんな顔を?」

 「オプションって知ってる?」

 「オプション? あれかしら? エンチャントの時に稀につくいらない・・・・おまけ」

 「うん。そのいらないおまけのオプションがスキルなんだ」

 「え? あれもスキルで授かるモノなの? あ……えーと。今日はお祝いね!」


 しまったぁっと母親はクルっと背を向ける。


 ”いらないか。せめてプラス1じゃなくて10ぐらいなら価値あるのになぁ”


 大きなため息をしつつエストキラは自分の部屋へ入った。

 床に敷きっぱなしの布団にごろんと横になる。


 ”スキルの詳細かぁ。マスターってどんなの? そういえばこれの説明されなかったなぁ”


 エストキラは、凄いスキルだという漠然とした事しか知らない。


 *マスター

  *レベル1:スキル発動消費MPを1にする。

   次のレベルまで:オプションがレベルアップ時に一緒にレベルアップする。


 「え? 消費MPが1?」


 ”あ、詳細にはちゃんと1ってなってる”


 *オプション

  消費MP:1(マスター効果)

  装備全般に有効

  成功率:50%

  オプションが付いているモノは上書きになる。

  *レベル1:素早さ+1

   次のレベルまで:2P/10P

   成功時2P、失敗時1P


 ”失敗しても経験値は入るのか。だったら消費MP1だし使いまくってレベル上げるかな。装備品……あ、ナイフでもいいかな?”


 ナイフと言っても農作業に使っているナイフだ。刃は欠けており切れ味が悪い。


 「スキルスバヤサ」


 ――付与に失敗しました。


 「失敗かぁ。二回に一回の成功率だもんなぁ。スキルスバヤサ」


 ――付与に失敗しました。


 「スキルスバヤサ」


 ――付与に失敗しました。


 「スキルスバヤサ」


 ――付与に失敗しました。


 「4回連続失敗って……はぁ。確率って当てにならないなぁ。まあ沢山やれば同じぐらいって事なんだろうけど」


 トントントン。


 「エスト、買い物行ってきてくれる? って、まだしょげてるの? 授かったのだから喜ぶのよ! あんなに農作業嫌だって言っていたでしょう」


 ちょうど失敗続きで、布団にうつ伏せになっていたところに母親が現れ、まだむくれていると思われたのだ。


 「……買い物? そんなお金あるの?」

 「ないわ。だからこのニンジンと肉を交換してきてくれない?」


 このと言いながら手に持ったニンジンを見せるが、実際はリュックにパンパンのニンジンだとエストキラは知っていた。


 「別にいつものでいいのに……」

 「何か言った?」

 「……なんでも。行ってきます」


 母親に睨まれてエストキラは慌ててニンジンが入ったリュックを背負い出かける。交換市場という場所があり、物々交換でモノを手に入れられる場所へと向かった。

 ヒエラルキーがあり、まずスキルを授からないと一番下なのだ。その者達は、与えられた畑を耕し、その者達で自給自足をする。つまりお金など持ってないに等しい。


 肉を売っている者は、スキル持ちだがあまり役に立たない者が与えられる仕事の一つ。それを交換市場で売っている。もちろん交換も可能だが、相手がいらないと言えば、交換できない。


 ”鶏肉は……あった。今日はいた”


 「あの~ニンジンと交換できますか?」

 「それ全部と、これとならいいだろう」

 「………」


 鳥の足二本だった。


 「いらないのか?」

 「いえ、いります。ありがとうございます」


 嬉しそうに受け取ってみせると、鳥の足二本だけ入った軽くなったリュックを背負い直す。


 ”明日からは僕も彼と一緒の位になるんだ”


 肉が普通に食べられるようになるとエストキラは、この時は思っていたのだ。

 久しぶりの肉はおいしく、両親にささやかだがお祝いしてもらい、なんだかんだと嬉しかった。


 次の日、畑仕事を手伝ってから神殿へと向かい、正式に契約を交わす。そしてスキル持ちの証としてグレードブレスレットを貰った。色はグレード1を表す黒。


 ”やっぱりグレード1だった。でも頑張れば上げられるって聞いた事あるし、がんばろう”


 「君には、荷物運びをお願いしたい。この装備一式に自分でオプションをつけ、役立てるとよい」

 「え! 運び屋!?」

 「君にはそれしかできないだろう? まず隣の街エイスティヌへ三日以内に運んでほしい」


 ”そんなぁ。僕に死ねって言うの!?”


 ヒエラルキーの一番下だといえ、村や街の中で暮らしていればモンスターに襲われる事はなく、一応守ってもらえていたのだ。

 スキルを持たない者は守られるもの。そしてスキルを持った者は守る側になる。だがエストキラのようなスキルだと戦闘には役に立たないので、食料作り――つまり農作や酪農をするが一般的だ。

 確かにお金は入るが、一人で行くとなれば命の保証はない。お金で護衛を雇うにしてもそんなお金があるわけがないのだった。

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