第43話・今更謝られても遅いです
「コブリナは帝国にいた頃から、見目の良い貴公子達を常に侍らせていたわ。皆が仲の良いお友達と言っていて夜会でも、連れ回して恋人のような密接な触れ合いをしているから高位貴族の方々には嫌われていたわね。皇帝陛下は取り巻きの男達の中から相手を選ぶようにと、彼女に言ったのだけど、それがなかなか一人には決めきれないと言われてね、頭を痛めてらした。嘘だと思うのなら、帝国で誰でも良いから貴族の子息を捕まえて聞いてご覧なさいよ。本当のことだと教えてくれるはずよ。そしてそんな女に許婚を奪われたわたしは、女としてどこか終わってしまった魅力がない、大変惨めな男爵令嬢として、後ろ指を指されて社交界で有名になっているわ」
ヴィナールが自虐的に言うと、アイギス公子は済まなかったと頭を下げた。
「あの時はどうかしていた。まずは最初にきみに相談して同意を得てから、人目がないところで皇帝陛下に申し上げるべきだったと思っている。きみの社交界デビューの日に、申し上げることではなかった」
「今更ですね。当時頭の中がお花畑だったあなた方は、一方的にヴィヴィを傷つけ放置し、イディア公国へと立ち去った。後に残されたヴィヴィはあの後、中傷に晒され立ち直れないほど落ち込んでいた。彼女の悲しみや苦しみを本当にあんた、分かっているのか? 口先だけの謝罪なんていらないんだっ」
「すまない。私で出来ることなら何でもする。償いはいつか必ずする。頼む。お願いだ。陛下に会わせてくれっ。この通りだ」
プライド高いアイギスは、その場で床に頭を擦りつけようとするくらいに平伏して頼み込んでくる。
「見苦しい。そんなことで絆されるとでも。邪魔だ。ここから出て行けよ」
憤るクルズは、アイギスを問答無用で襟首を掴み、引きずってでも客室から追い払おうとした。ヴィヴィはそれを止めた。
「待って、クルズ」
「ヴィヴィ?」
「アイギス、一度だけよ。皇帝陛下に繋ぎをつけてあげる。あとは自分でどうにかして」
「ヴィヴィ!」
「分かっているわ。お人好しだって言いたいんでしょう? クルズ。でもね仮にも一国の公子がこんなに頭を下げて頼み込んでいるのだから、一度くらいは話を通してあげてもいいと思うの。後は皇帝の判断に任せましょう」
ヴィナールの言葉に、クルズは渋々従う。ヴィナールは公子のアイギスが、見栄もプライドもかなぐり捨てて頼み込む姿に、哀れに近いような気持ちを抱いた。それに対しクルズは、絆されたと感じて面白くないようだった。
別にもうアイギスのことは何とも思ってないが、このまま突き放すのも後味が悪いような気がしたのだ。
しばらくしてヴィナールは、船長を呼び寄せて、「彼らが捜していた人物は自分の連れだから」と、言って騒がせて済まないと謝り、彼の分まで乗車料と個室料を払ったので、クルズはいい顔をしなかった。
ヴィナールとしては、アイギスがお金の持ち合わせがなく、この船には忍び込んだと聞いたので、後で返してもらうことを条件に代わりに払ってやったのに、「ダメ男に甘いんだな」と、クルズにはますます呆れられた。
でも後にクルズの言うとおり、ここで彼を突き放した方が良かったと、後悔する事になろうとはヴィナールはこの時、考えもしなかった。
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