第3話・今までどこにいたのですか?
「英雄の娘を娶るには恐れ多いそうです」
「恐れ多いって、それを知りながら望んだのは向こうだろうがっ」
ヴィナールは、憤る父親を見て「お父さまもたまにはまともなことが言えるのね」と、変な感心をした。
ヴィナールとアイギスの婚約破棄の理由を、そう持ち出してきたのは彼の父親だ。
自分達の方から「ぜひ、英雄の娘さんを息子の嫁に」と、皇帝を通して乗り気で縁談をもちかけておきながら随分、勝手な話だと思う。
後日、皇帝から謝罪はあったが、当事者や大公側からは何もなかった。
「それにしても腹が立つ話だな。アイギスの野郎をぶん殴るだけでは気が済まないな。おまえはどうしたい?あいつのナニをちょん切ってやろうか? 阿婆擦れの娘はひん剥いて海の藻屑にしてやるか? なんならあの国をひねり潰してやろうか?」
「お父さま。そのお気持ちだけでいいです」
ヴァハグンが拳を振り上げて言った。言いだしたら実際にやりかねないことを知っているヴィナールは止めた。
「おまえは優しい娘だな」
「そんなことを言うのは、今となってはお父さまだけです」
「アイギスは見る目がない。おまえじゃなくてあの、誰にでも股開く女を選ぶだなんて目が腐っている」
ヴァハグンはコブリナのことを良く知っていた。親子ほど年の離れた末の妹に振り回されてきたからだ。この帝国の者なら誰でも知っているが、コブリナはヴィナールの叔母にあたる。
その叔母に姪の婚約者が寝取られただなんて、皇家にとって醜聞にしかならない。夜会後、二人はイディア公国に早々に立ってしまった。皇帝にとってもコブリナの存在は、頭の痛い問題だったからアイギス公子の申し出は渡りに船と思ったのもあるに違いない。
コブリナのどこが良いんだろうな? と言うヴァハグンには激しく同意したくなるが、彼らとはすでに縁が切れている。
正直、コブリナにアイギスを奪われたのは悲しかったが、もう3年も前のことだ。寝取られ男なんかに未練などない。あの時は散々、泣いたけどもう終わった話だ。
ヴィナールは、話題を変えることにした。
「そういえば、お父さまは今までどちらにいらしたのですか?」
「極寒の地に行っていた。そこには力自慢の魔物が住んでいて、それに挑んでいた」
「6年も?」
ヴィナールの指摘に、ヴァハグンの頬が引き攣る。
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