素敵な隆さん
宇美
1、スマートフォンの待ちうけ画面がぱっと変わって、 ごめん、 後五分で駅につくから、 というラインのメッセージが現れた。
スマートフォンの待ちうけ画面がぱっと変わって、
ごめん、
後五分で駅につくから、
というラインのメッセージが現れた。
お見合いパーティーで知り合った隆さんとは今日で四回目のデートである。
彼が遅れるなんて珍しいわ、
と思いながら返信をする。
スマートフォンはピンクのハートが背景の花嫁花婿に扮したテディベアの待ち受け画面に戻り、
春菜の口元をゆるませた。
八重洲北口を津波のように行きかう人々の中にはカップルが多い。
五分きっかりで隆さんが現れた。
すらりと伸びた肢体を、
色の抜けたジーンズとライトグレーのカーディガンに包み、
淡いピンク色のショールを首に巻いている。
まだ暗い色の服装が多い中、
一足早く、
春らしい装いで、
人目もはばからず手を高く上げ振っている。
木漏れ日のような微笑みで、
あたりの空気を春色に変えながら、
大股で近づいてきた。
春菜が見とれている間に隆さんは目の前に来て、
春菜の頭上高くにある、
小さな頭を下に向ける。
「春菜ちゃんごめんね。
途中で人身事故があって、
早く出たのにちょっと遅れちゃったよ。
まったく死ぬならもっと人に迷惑がかからないように、
一人で勝手に死んで欲しいよね……」
と何か遅れた理由を説明していたが、
春菜は隆さんの優雅に開いては閉じる形の良い唇を、
うっとりと眺めていたので、
話の中身なんて、
ろくに聞いていなかった。
三十歳目前に学生時代からの彼氏に振られ、
必死で婚活をして、
お菓子屋の経営をしている隆さんにめぐりあった。
今では前の彼には振られて良かったと思っているほどである。
予約しておいてくれたという駅前のノルーウェー料理のレストランに入ると、
バジルの香りが漂ってきた。
壁は若草色で、
家具は白木である。
春菜はあまり広くない店内をひとしきり見回した後、
隆さんを振り返る。
長い睫毛を伏せた憂いがちな目が魅力的ではあったものの、
何だか今までのデートの時のような元気がない。
どうしたの? と聞くと、
ちょっとね仕事でね……
とせつなそうに長いため息をついたきり、
具体的なことは教えてくれない。
やはり社長さんの彼は、
雇われている立場の春菜より難しい問題も多いのだろうか?
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