3、数日経た日曜日の午後のことだ。

数日経た日曜日の午後のことだ。


三郎が墓参りから帰ってきて長屋門を超えたときである。


ちょうど後ろから太郎兄さんのミニバンも戻って来て、

母屋の前で止まった。


ドアが開くと太郎兄さん、

姉さん、

番頭さんが出てくる。


手には町の玩具屋の包装紙の箱を抱えている。


番頭さんがどこに行ってきたの?

と三郎に問う。


母さんの墓参りと答えると、

皆は孝行息子だと口々に三郎を褒めた。


●・○・●・○・●・○・●・○・●・○・●・○・●・○・●・○・●・○・


三郎は褒められながら、

上の空で車から運びだされてきた沢山の箱を見つめていた。


熊とうさぎの模様の包装紙の表面に目を凝らす。


下から透けて見えるのはアルファベットで書かれた玩具の名前や写真だ。


大型の汽車の模型や、

子供が乗れる自動車のようだ。


飛行機のラジコンもある。


何故こんなに玩具ばかり買ってきたの?

と聞くと太郎兄さんが照れた様子で頭を掻く。


姉さんと番頭さんが笑っている。


太郎兄さんは恥ずかしそうに口を開く。


三郎の話を聞いていたら

こんなものを置いておけば男の子が来るんじゃないかと思ったそうだ。


「もちろんそれだけじゃないよ。

友達が輸入玩具の店を始めたから開店祝いさ。

それに舶来物はデザインが優れていて大人が見ても面白いから」


などとぶつぶつ言っていた。


歯切れが悪い。


いつもの太郎兄さんとだいぶ違っている。


●・○・●・○・●・○・●・○・●・○・●・○・●・○・●・○・●・○・


皆で兄さんと姉さんの寝室に玩具の箱を運び込んだ。


胸を躍らせて包装を解いていく。


組み立てが必要なものも多い。


それに外国語で書かれていて意味がわからないから

いちいち太郎兄さんに聞かなければならない。


●・○・●・○・●・○・●・○・●・○・●・○・●・○・●・○・●・○・


やっとの思いですべての玩具を組み立て終わった。


古めかしい和室が、

昔テレビドラマで見たアメリカの子供部屋や小公子の部屋に変貌した。


実はこれもあるんだよと太郎兄さんが大事そうにある物を出す。


それを見て三郎は飛び上がった。


それはは例の熊とうさぎの包み紙ではなかった。


三郎が前から欲しいと思っていた鉄道模型店の包装紙である。


●・○・●・○・●・○・●・○・●・○・●・○・●・○・●・○・●・○・


兄さんは三郎の目をみてにっこりと笑うと、そっと箱を開けてくれた。


発泡スチロールに横たわっていたのは蒸気機関車と貨車だ。


蒸気機関車は黒光りし、

丸い顔で、

高い円筒がついている。


貨車は濃い緑色だ。


貨車には柵がついている。


中にはライオンやトラが乗っている。


線路も同じ箱の中に入っている。


太めでしっかりした枕木には木の目まである。


三郎はこれはどうやって遊ぶものか良く知っていた。


何度も模型雑誌で見たことがあるのだ。


庭に線路を敷いて走らせるものだった。


太郎兄さんが満足げな顔でどうだ?と三郎に聞いた。


三郎は

「男の子ぜったい来るよ!」と顔を輝かせて答えた。


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もう遅いので組み立てるのは明日にすることにした。


けれども三郎は我慢ができなかった。


線路を三つだけつなげ、

その上に貨車をつけずに機関車を置いた。


上から横からと眺め回し、

ため息をついた。


番頭さんと姉さんも立派なものだね、

と感心している。


●・○・●・○・●・○・●・○・●・○・●・○・●・○・●・○・●・○・


次の日朝早くから工事を始めた。


寝室の雨戸を出てすぐ外にある小さな池の周りに線路を引いていく。


番頭さんはこういったことが得意なので昼前には完成した。


機関車の底をはずし付属品の油をセットする。


貨車とつなげ線路の上に置く。


線路にくっついた、

膝ぐらいまでの高さの棒の上についたスイッチを押す。


そろそろと汽車が動き出す。


からからと車輪の音をさせながら

池の周りを走り抜けていく。


汽笛の音と共に煙が立ち上る。


皆、

歓声をあげて拍手をした。


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