後悔のない選択

赤猫

後悔ってしたくないじゃん?

長ったらしい卒業式が終わって私は一人教室でぼうっと外を見つめている。

クラスメイト達は後輩と話していたり、友達と楽しそうに会話する声が聞こえる。

私も今日の主役である卒業生なのだから降りればいいのだが、何となく静かな場所にいたくなったのだ。

私は視線を外から教室に移した。

皆で授業を受けた教室、ワイワイ騒いだ休み時間ここで沢山の思い出ができたし沢山の時間を過ごした。


(ここも今日でお別れか·····)


私は自分の席に座った。

私の隣には私が片思いをしていた人が座っていた。

うちのクラスはくじ引きで席替えをするので、彼の隣になった時は嬉しくてその日は布団に入ってもなかな か寝付けなかったのを覚えている。


(結局告白せずに終わったな)


私の勇気が無いせいで、彼·····ヒロくんに告白出来ずに終わった。

私は机に突っ伏して盛大にため息をついて言った。


「どうせフラれるんだから告っときゃ良かったのに·····」

「え?なになに、お前好きな人いるの?」

「え?」


私は自分以外の声を聞こえて、ガバッと顔を上げる。

目の前には片思いしている彼。

私は驚きすぎて椅子から落ちそうになった。


「大丈夫?」

「だ、大丈夫ビックリしただけ」

「ごめんな急に話して」


申し訳なさそうに彼は言う。


「ううん気にしないで·····忘れ物でもした?皆外にいるよね」

「今日で最後なんだよな〜って思ったら何となく来たくなって」


そう言って寂しそうに教室を眺める。


「あっという間だったな·····もう卒業したって実感ないなぁ」

「時間って速いよね」

「後悔しないように過ごしたつもりだけど、今になってあぁしとけばよかったって思っちゃうんだよな·····サクラもその、告白、今なら間に合うんじゃないかな」


気まずそうに彼は頬を掻きながら言う。


「やらないで後悔するよりはいいかなって·····ごめん!お節介かも知んないけど·····」

「·····ううん、ありがとう」

「俺もう戻らないと、友達待たせてるし」


そう言って彼は立ち上がろうとした。

私は無意識に彼の袖を掴んでしまった。


「あれ?どうした?」

『やらないで後悔するよりはいいかなって·····』


私の頭の中で彼が言った言葉が再生される。

このまま言えないまま終わるのは·····嫌だ!

悔しい思いするなら振られた悔しさの方がいい·····その方がいいに決まってる!

こうなったらダメだけど勢いに任せる!


(フラれるの分かってるけど·····当たって砕けろ!)

「あ、あのね·····私伝えたいことがあってね!」


私がそう言うと彼は私の方に顔を見る。


「私·····貴方のことが好きです!」


彼は口をパクパクしている。


「えっ?!·····お、俺?!」

「う、うん」


さっきまで緊張してたのに、彼が慌てているの見てると冷静になった。


「だ、大丈夫?」

「いや急に告白されて、頭が追いついていない·····どうしよう·····ちょっと待ってね」


勢いよくしゃがみ両手で顔を覆った。


「ちょっと待って·····落ち着くから」


彼は「落ち着け·····お、落ち着け」と呟いている。

きっとお優しい彼のことだ私を傷つけないような返事を探してるに違いない。


「あのさ·····ありがとう話聞いてくれて」

「え?」


私は外の桜を眺めながら話した。


「振られる前提で告ったんだから、返事は·····いらない、きっとヒロくんには素敵な子がいるだろうし」


私なんか釣り合うわけが無いのだから。


「んー!スッキリした!ごめんね」


彼の顔が見れない。

きっと見たらきっと多分泣く。


「···············だよ」

「え?なんて?」


急に発せられた声に反応して彼の方を見た。


「俺·····お前のこと好きだよ」

「ありがとう·····気遣ってくれてるんだよね·····優しいなぁ」

「嘘なんてついてないこれは俺の本心だよ」


私の顔をじっと真剣な表情で見てくる。

私はそんな彼を見ていて我慢が出来なくなって、鞄を持った。


「か、帰る!」

「まだ話終わってないよ」


そう言って私の手首を彼は掴んだ。

何とか逃げようと抵抗するが、びくともしない。


「ねぇ·····逃げないでよ、ちゃんと俺を見て」

「あ、う·····」


静かな教室に響く声。

好きな人の声なら尚更。

私は抵抗を諦めた。


「ありがとう俺の事好きって言ってくれて、びっくりした」

「私も·····驚いた·····まさかヒロくんが私の事好きだなんて」


私たちは今前座っていた席に座っている。


「ヒロくんさっきの告白さ·····無しに「しません」


満面の笑みで彼は言った。


「無しにはしないけど悔しいな·····告白先越されたの、ねぇ告白していい?」

「はい?!·····いいじゃん別に·····」

「言わせてよいいでしょ?じゃあ言うから」

「待ってくださいお願いします心の準備をさせてください!」

「じゃあ三秒後に言うから、はい、いーち」

「え?あの?三秒後でえ?」

「はい、にーい」


私が慌ててるのを楽しそうに見ながら彼はカウントを止めない。


「はい、いーち」

「あの?·····選択する権利は?」

「はい、ぜーろ·····じゃ言うからね」


私の懇願は虚しく彼は私にとって一番嬉しい言葉を言う。


「好きです付き合ってください」


私の好きな笑顔で手を差し出して言う。


(そんな顔されたら·····頷くしかないじゃん)


好きな人には勝てないもので、私は彼の手を笑顔で取った。

外のクラスメイトだった人達の声が私たちを祝福してくれてるような気がした。








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