第4話 義眼の少女4
楓がいなくなってから、高見澤は部屋の内側からドアの鍵を閉めた。取調室は防音になっていて、外部からは覗き見することも、盗み聞きすることもできない。
高見澤が席に着き直してテーブルの側面のボタンを押すと、室内が自動的にがらりと模様替えになった。
床と壁と天井が開き、隠されていた装置や器具が現れた。
床には鎖につながれた鉄の手枷足枷など拘束器具。壁には武器格納庫と、人獣や半妖を拷問する時に使うレーザーガンのように見える高周波音波発生装置、電気ショックを発する黄色と黒の縞に塗られた警棒など。天井には断層撮影ができる半球形のエックス線画像装置。
––––––高見澤が取調をする相手は、人間とは限らないのだ。
テーブルの天板がスライドして開き、平らに収められていた大きなモニターが、角度をつけながらせり出してきた––––––分厚い取調用のテーブルにも、色々な仕掛けがされていた。
モニターに取調中の楓の画像が現れ、音声も録音されていた。
高見澤は電子表示のターゲットマークを楓の片方の眼に合わせて大きく拡大した。
瞳の中できらきら星屑のような光が生き物のようにうごめいている。見詰めていると吸い込まれそうな感覚を覚える。
この眼は本当に電子義眼なんだろうか––––––
高見澤は楓に内緒で、電子義眼の技術を綿密に調査したのだが、そのどれもが、楓のこの眼には当てはまらなかった。電子義眼の技術はあることはあるのだが、それはロボットの眼に近くて動きはぎこちなく、LEDバックライトで光らせることもできるが、それこそ不自然なランプのようになる。
楓の眼の虹彩や瞳孔の美しい煌めきは、人工的な光とは全く次元の異なるものだった。
高見澤は念のためもう一つウインドウを開き、楓の眼と実在する電子義眼の画像を左右に並べて比較してみた。十種類以上の電子義眼と比べてみたが、どれも楓の眼とは似ても似つかなかった。
違うな––––––
高見澤はいったん画面を消して、別なシステムを立ち上げた。今度はCTスキャンで頭部を縦横に切った断層写真だった。電子義眼の内部構造を探ろうとしたのだが、驚いたことに画像は何枚めくってもグレーの雲のようなふわふわが写っているだけだった。
––––––画像が正しいとすれば、楓の頭部は伽藍堂(がらんどう)だ。
高見澤は舌打ちした。一番肝心なところの検証ができなかった。
どうなっているんだ。システムの不具合だろうか––––––
いや、待てよ––––––
高見澤は過去のファイルの中から、鰓(えら)が張った緑色の妖怪の画像をピックした。
楓の画像と並べてみると似ても似つかない。
しかし。
「CTスキャン対比––––––」
高見澤がそれぞれの断層写真を画面に並べて出した時、それはどちらもグレーの雲のようなふわふわで、どっちがどっちか見分けがつかなかった–––––楓の断層写真は妖怪と全く同じ写り方をしていたのだ。
「これはやばいんじゃないか–––––」
高見澤は両手で頭を抱えた。
高見澤の目は据わっていた。それは怪奇事件を捜査する時の刑事の目だった。
外では取調室の壁を楓が青い眼を輝かせて見詰めていた。壁を押し分けるように穴が穿(うが)たれ中の空間が見えた。電子義眼と霊感で楓は厚い壁を透視することができる。高見澤の行動は楓には筒抜けだった。
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