学園編
第2話
黒い髪をなびかせて颯爽と現れたヒーロー男性は、まだサラマンダーが地面に横たわりながらも自身の存在を維持できているので、最後の一撃として首の部分を風の神力をもってして横に切断した。こちらに被害が出ないように範囲限定をしているらしく、それは神力を操作できている証拠でもあった。
魔物の一種であるサラマンダーは魔族が住む世界、反転世界と呼ばれている所から来ているらしく、どうやってこちらに具現化できているのかは、ここでは省略するがその世界から時折こうしてこちら側に現れる。
数千年前、魔族と神によって作られた人の間で戦争が絶えなかった頃、彼らの行為に嘆き悲しんだ1人の女神が魔族のために映し鏡のように世界を作った。そして、2つの世界の間に強固な結界を張り争いが起こらぬようにした。
というのが、現代に伝えられている内容だった。しかし、おそらく実際はそんな結界はないのだろう、というのが、旅をしていた時の僕とあの人の考えだった。
それは置いておいて、サラマンダーが最後の一撃が決定打となり具現化を保てなくなったことで最後にエネルギーを爆発させて消えた。魔物の厄介なところはこちらの世界から消滅する際、必ずといっていいほどに内側に溜まっていただろうエネルギーを暴発させることだった。そのエネルギーの大きさが大きいほどにその爆発は大きく、それに比例して被害も大きい。中には、爆発と同時に毒を撒くものもいる。
何はともあれ、サラマンダーが消えて一安心したので、お礼を言おうと立ち上がると、彼はこちらを振り返っていた。その顔を見て驚いた。ここ数年、ずっと隣にいてみていた顔と類似していたのだ。特に、月の光を少しだけ閉じ込めたような黒い瞳があの人を思い出させた。ちょっと、顔を見ていると怒りをぶつけそうだったので頭を下げた。
「ありがとうございます。助かりました。」
頭を下げても不自然にならないように、彼にお礼を言った。
「お前、危険だったことは認識しているのか?もう少しで命を落としていたんだぞ。それに、まだ子供でどうしてここにいるんだ?こんな暗い森に。1人なのか?親は何をしているんだ?」
まさかの尋問が始まった。
いや、全て、肯定したいところだが、彼の口は止まず、何も言えない僕に苛ついているようで、その口調はどんどん荒くなった。
誰か彼の口の塞いでほしい。
「はいはい、そこまで。ジン、そんな風に年下の子を虐めるなんて紳士じゃないな。」
「は?お前にそんなことを言われたくもない。それに俺は現状確認と危機感のない子供を諭しているだけだ。」
「そうかもしれないけど、相手はそんなに質問攻めされたらそうは思えないんだよ。」
「質問攻め?どこが?」
まるで、今知ったと言わんばかりだった。
その反応に急に現れた金髪に雲一つない晴れた空の色、ブルースカイの青色の瞳をしたジンと呼ばれた男性と同じくらいの年の男性がため息を吐いた。
「まったく、ジンはそれだから誤解されやすいんだよ。」
「は?」
「いや、分からないならいいよ。もう、黙ってて。」
彼は容赦なしに言い、ジンを黙らせた。
すると、彼はこちらを見て手を差し出した。
その差し出された手の上側、服の裾から少しだけ出ている手首にある腕輪を見て驚いた。
僕が着けているものと同じ物だったからだ。つまり、彼らも僕と同じ学園の人達ということになる。
さっきから思っていたことだけど、彼らの顔は整い過ぎていないだろうか?
そういえば、王族・貴族は当たり前に学園に多いんだった。彼らは無論その部類だろう。整い方が異常だ。
神の血が混ざりし血族たる彼らの容姿は上位になればなるほど容姿端麗な人ばかりの集まりだと聞いたことがあった。あの人もちゃんと身なりを整えれば、ジンのようにきれいな風体をしていたから。たぶん、同類だろうとは思っている。
「初めまして。僕はフェイ。こっちはジン。君の名前は?」
「レイと言います。」
偽造と聞きなれない響きは言っていて違和感しかないが、不自然な顔つきにならないように努力した。
これから何十回と使っていくうちになれるだろう。
彼らは何も気づかないでそのまま話を進めるようだった。
僕は彼の手を握り握手を交わすと、彼も気づいたようだ。
「君、イースト学園に向かっていたのかい?」
「はい。これから向かいます。」
「そうなんだ。僕らは学園の3回生だよ。これから後輩になるんだね。」
「はい、これから1年ほどですが、よろしくお願いします。」
3回生は学園の最終学年で学園の責任を負う立場でもあった。学生同士で諍いが起こった際、ことを収めるのはもちろん教師が最終的判断を下すが、3回生はその早期発見と解決を任されているらしい、とギルド所属、学園出身の冒険者に聞いたことがあった。
「でも、一緒の目的地は好都合だね。僕らの実地訓練はこの森の安全の確認だったんだ。もう終了の時間だからこれから学園に戻るんだけど、君も一緒にどうかな?暗い森を1人で移動は結構辛いだろうし。」
「いいえ、そんなご迷惑はかけられませんし、森を抜けるのは後少しなので、そんなに時間はかからないかと。それに1人歩きは慣れているんで、心配には及びません。」
「お前に拒否権はない。」
断ろうとしたのに、ジンに肩に担がれた。それにより、身動きが取れなくなった。全く僕には最初から選択の権利なんてなかったんだ。僕ってそんなに危なっかしいんだろうか。
「ごめんね。でも、ジンは君のことが心配なんだよ。だから、一緒においで。食べ物なんかも余分にあるし。」
フェイの口調は相変わらず軽かった。
この体制ではすでに断ることなどできないだろう。僕は諦めて彼に体を預けた。そして、夜の森を抜けていき、林から台地に視界が変わった。
学園がある学園都市まであと少しだった。
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