彼女が上から、凍死体となって部屋に降ってきた〔SFホラー〕
楠本恵士
彼女が上から、凍死体となって部屋に降ってきた①
その夜はやたらと、寝苦しい熱帯夜だった。
「あじぃ、なんでこんな時にクーラーが壊れるんだよ」
ラフな格好で、暑さに喘いでいたオレはマンションのベランダ窓を開けっぱなしにして。
熱風混じりの夜風でも、クーラーが壊れた部屋で窓を閉めきっているよりは、少しはいいかと思って開け放っていた。
「本当に暑いな、スゥーと涼しくなるコトはないかな?」
オレがそんなコトを思っていると、窓からスゥーと涼しい風が吹き込んできた。
(あっ、涼しい)
オレがそう思った瞬間、窓の外を炎を引いて、燃える何かが落下していった。
ドスンという音が、マンション脇の通路から聞こえた。
(まさか? 焼身自殺?)
オレの部屋はマンションの三階にある、当然それ以上の階から固いアスファルトの道に落下すれば助からない。
「マジかよ!」
急いで部屋を出て、燃える何かが落下した地点に行ってみた。
やっぱり、燃えていたのは人間だった──人体が燃える時の、爪や髪が燃える臭いが鼻をつく。
(大変だ! 警察に連絡を! いや、救急車を)
動揺したオレは、火が下火になった人体の焦げた指に、キラッと光るモノがはめられているコトに気づく。
金色の指輪が薬指にはめられていた。
その指輪には見覚えがあった、三日前にオレが婚約者に贈った指輪に似ていた。
(偶然……だよな)
怖くなったオレは、一度自分の部屋にもどって婚約者に電話する。
婚約者の彼女は、すぐに電話に出た。
『はい、もしもし』
彼女はいつもと変わらない様子で喋った。
「変なコトを聞くけれど……ずっと、そこに居た?」
『はぁ? なに言ってんの?』
彼女は、どこにも外には行かなかったらしい。
『あんた、頭大丈夫?』
少し強気で、オレのコトをどこか小バカにしている雰囲気がある婚約者。
オレは時々、彼女の言動が気に障る時がある。
電話を切ったオレは、落下した焼死体を確認しに行った。
焼けた死体は無かった、道には焦げた痕跡すら無かった。
(幻覚でも見たのか? それにしては、生々しかった)
オレは、燃える死体が落ちてきたマンションを見上げる──屋上は飛び下り防止の柵があって、あそこから燃えて落ちてくるコトは不可能に思えた。
その夜は、それで終わった。
次の夜の同じ時刻……また、ドスンと人間らしきモノが落下したのがベランダ窓から見えた。
急いで階段を降りて、落下地点を確認すると、そこにうつ伏せになって、顔だけ横に向けた女性の死体があった。
死体の顔は間違いなく、オレの婚約者の顔だった。
穿いているスカートも、いつも穿いている花柄のスカートだった。
雨が降っているワケでもないのに、死んでいた彼女の髪と顔は濡れていて、まるで溺死したようだった。
(いったいなんなんだ? これは? 死体が降ってくる?)
彼女からは、数分前にコンビニへ行くと連絡があったばかりで。
オレの住んでいるマンションとは反対方向のコンビニだった。
自殺か? 他殺だとしたらいったい誰が?
オレがマンションの管理人を呼びに行って、一緒に戻ってきた時は彼女の死体は消えていた。
次の夜は、首に絞殺痕が残る彼女の死体──その次の夜は、メッタ刺しにされた婚約者の死体が落ちてきた。
(頭がおかしくなりそうだ?)
タイヤ痕が残る、轢死体……顔色が変色した毒殺死体。
落下してきた彼女の死体は、決まってオレが少し目を離した隙に消えていた。
じっと目を反らさずに見ていると、彼女の死体は残っていたが……死体を凝視している現場を誰かに見られたらどうする?
と、思うと恐怖だった。
瞬きをした瞬間に彼女の死体は消える。
一度はスマホで死体を撮影して、証拠を残そうかとも思ったが。
(スマホで写した彼女の死体画像を、警察でどう説明する?)
そう考えると、画像を残すコトはできなかった。
やがて彼女の落ちてくる死体は、腐乱死体や水死体や半分白骨化した死体まで降ってくるようになった。
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