車椅子を壊せー宮藤女子高等学校演劇部の話ー

八州冷

第一話 幕が上がる前に

 その女子高校生は意気消沈としていた。頭は何も考えられないくらいふわふわとしているのに体だけは鉛のように重い。終点を告げる車内アナウンスが聴こえ、荷物をまとめるも立ち上がる気力は起きなかった。

 彼女、高橋メイは春季高等学校演劇大会春フェス地区予選の帰り道である。その面持ちから察せられるように勝ち進むことはできなかったのだ。理由は「マイノリティという社会問題が脚本上ノイズでしかなかった。」かららしい。もちろん他にも批評を受けた気はするが、脚本を書いた身としてはその言葉だけが重く心に残った。


 自信はあった。普通の高校生たちが文化祭を成功させるというありふれたストーリーに昨今の流行を鑑みてLGBTQやらSDGsやらを盛り込んだ。脚本の設定に関しては社会の先生にもお墨付きをもらった。何なら同じテーマの学内スピーチコンテストで最優秀賞を取ったのは他ならない高橋自身だったのだ。


 ああ、もう「そういう社会問題」を書くのはやめよう。今度はマイノリティとかいない平和なファンタジーでも書こう。そう思いながらようやく重い腰を上げ、ゆっくりと歩き出した。



 なんとなく前を向いた高橋の前に「障害」が現れるのは、このわずか数週間後のことである。

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