カカシ村の只太郎
@_000
第1話
大和県西大和村は吉野の山奥にあった。
かつては干し柿が有名で、独特の芳香を放つ「西大和柿」を求めに東京からも人が来るほどであった。
今の主な産業は住民の年金。村の財政は中央からの補助金に頼り切っている。
高齢化率は99%。
64歳の村長が最年少であり、唯一の現役であった。
「山中さん、おはよう。今日はどないですか」
村長の仕事は、村民を一軒一軒見回ることだ。
病気になれば病院に、認知症が進んだら介護施設に連絡する。
といっても、高齢者しかいない西大和村には医者も介護士もいない。北大和市に連絡して対応をお願いするだけだ。
山中さんは、今年80になる。体は元気だが、頭のほうが少し怪しい。
返事がない。
「大丈夫か。あがるで。」
寝室にいくと、山中さんは布団の上ですわっていた。
「返事せえへんと。死んでるかと思うやん。」
冗談をいいながら、近づくと異臭がする。よくみると、布団の上に液体が広がっている。
「すみません。すみません。」
山中さんはすまなそうにしている。
老人たちのお漏らしに遭遇するのは日常茶飯事だ。
「ええんやで。」
山中さんの服を脱がせて股間を拭く。だらしなく伸びた男性器がふらふら揺れている。若い頃野球で鍛えた大柄な肉体を支えながら拭くのはつらい。
「山中さん。施設へ行こか」
山中さんの顔が曇る。
「嫌や。」
嫌だろう。財政難と介護士不足で施設の質は下がりきっている。刑務所のほうがマシということで犯罪する老人も多い。
「でも、わたしも毎日こうやってみにきてやれへんのや。明子ちゃんは来てくれへんの。」
山中さんは生涯独身だった。姪っ子の明子ちゃんが唯一の親族だが、北大和市に嫁いで村にはほとんど帰ってこない。叔父の介護を強いるのも忍びない。
布団を干したり一通りのことをしたら昼になってしまった。この調子でまわっていたら週に1度も来れない。その前に自分が体を壊しそうだ。
若者がいない村、こんな村が日本中にいくつもある。
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