⑧
「そ……そんな……」
愕然としている間に、吸血鬼が健の体を異様に伸びたら爪で切り裂こうとした。
「くそ!!」
健は思いっきり足で蹴飛ばす。
バランスを崩した吸血鬼はそのままうしろへと倒れこんだ。
健の息はすでに上がっていた。
健は吸血鬼を複雑な表情で眼をそらさぬように見つめた。
吸血鬼は再び立ち上がる。
「くそっ埒があかない」
しかし、先ほどの映像はなんだったのだろうか。
あれは……
その瞬間だった。突然、強烈なめまいに襲われた。
(しまった! 使いすぎた!)
こんなところで倒れたらいけない。
ここで倒れたら、おじさんも店のひとたちも吸血鬼にやられてしまう。
健が不意に視線を向けると、店の人たちは、すでに店の外へと逃れていた。もうここには、吸血鬼と健、島木の三人しかいない。
いまは島木を守ることに集中できる。
めまいが襲う。其れを必死にこらえながら、カードを一枚再び取り出して構えた。
いまだに、事態を把握しきらずにぼーっとしている島木がいる。
「島木さん早く逃げてください」
消えそうになる意識にもかかわらず、健は必死に叫ぶ。
島木ははっと健を見る。
しかし、もう限界にきていた。
意識が突如として失われ、健は崩れるようにたおれてしまったのだ。
島木はあわてて、健のほうへと近づくと、それをささえる。
「嶽崎くん! おい! 嶽崎くん!」
島木が、健を揺さぶるも意識は戻らない。
そのとき、自分に近づく影に島木ははっとする。
振り返ると、そこには黒いマントに身を包み、息子の顔によく似た異形の存在がこちらをにらみつけていた。
「栄治」
島木の声が震えている。
吸血鬼の口元にかすかな笑みが浮かびあがっていた。
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