「そ……そんな……」


 愕然としている間に、吸血鬼が健の体を異様に伸びたら爪で切り裂こうとした。


「くそ!!」


 健は思いっきり足で蹴飛ばす。


 バランスを崩した吸血鬼はそのままうしろへと倒れこんだ。


 健の息はすでに上がっていた。


 健は吸血鬼を複雑な表情で眼をそらさぬように見つめた。


 吸血鬼は再び立ち上がる。


「くそっ埒があかない」


 しかし、先ほどの映像はなんだったのだろうか。


 あれは……


 その瞬間だった。突然、強烈なめまいに襲われた。


(しまった! 使いすぎた!)


 こんなところで倒れたらいけない。


 ここで倒れたら、おじさんも店のひとたちも吸血鬼にやられてしまう。


 健が不意に視線を向けると、店の人たちは、すでに店の外へと逃れていた。もうここには、吸血鬼と健、島木の三人しかいない。

 いまは島木を守ることに集中できる。


 めまいが襲う。其れを必死にこらえながら、カードを一枚再び取り出して構えた。


 いまだに、事態を把握しきらずにぼーっとしている島木がいる。


「島木さん早く逃げてください」


 消えそうになる意識にもかかわらず、健は必死に叫ぶ。


 島木ははっと健を見る。


 しかし、もう限界にきていた。


 意識が突如として失われ、健は崩れるようにたおれてしまったのだ。



 島木はあわてて、健のほうへと近づくと、それをささえる。


「嶽崎くん! おい! 嶽崎くん!」


 島木が、健を揺さぶるも意識は戻らない。


 そのとき、自分に近づく影に島木ははっとする。


 振り返ると、そこには黒いマントに身を包み、息子の顔によく似た異形の存在がこちらをにらみつけていた。


「栄治」


 島木の声が震えている。


 吸血鬼の口元にかすかな笑みが浮かびあがっていた。

  

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