⑨
「栄治……。栄治なのか? おまえはまた罪を犯すのか?」
島木は、震える声でその吸血鬼に問いかける。するとほんの一瞬吸血鬼は動きを止める。島木に反応したのか。能面のような無表情からはなにも読み取ることができない。
あれはなんなのか?
たしかにその顔は島木の息子栄治そのものだ。しかし、それはありえるのか。
栄治がここにいるはずがない。
目の前にいるのはただの化け物だ。
逃げなければ
いますぐに、この場を逃げなければならない。
島木が化け物に背を向けて逃げ出そうとすると、吸血鬼は島木の体を掴みあげた。その力はすさまじい。島木は声さえもあげられずに目を大きく見開く。
吸血鬼はその大きな牙が大きくあけられる。そのまま島木の肩に食い込む。
島木は痛みのあまり呻き声をあげる。さらに吸血鬼の牙が食い込んでいき、シトシトと島木の肩から血が流れていく。意識が朦朧とする。いったいどれくらいの血がながれたのだろうか。
もうすぐ死ぬ。
自分は死ぬんだ。
そう思ったとき、突然島木の耳に断末魔の叫びが聞こえたかと思うと体が自由になった。
突然解放された島木の体はそのまま前のめりに倒れこむ。
意識はまだある。
なにが起こったのか把握しきれずに愕然と下を向く。
「リーダーの予測が正しかったか」
すると聞き覚えのない男の声が聞こえてきた。
島木がゆっくりと顔を上げると二十歳ぐらいの小柄な男がこちらをみていた。鋭い眼と肩につくほどの長い髪が特徴の男で島木にはまったく見覚えがない。
「きみは……?」
島木が震えながら問いかけるが、男は島木の存在など気に留めることなく、ぐったりと倒れている健のほうを見ていた。
「嶽崎くんの知り合い?」
「嶽崎! いつまで寝ている。さっさとおきろ」
島木の問いかけを肯定するかのように、男は健の名前を呼びながら身体を思いっきり蹴飛ばした。
「いてえええ」
相当痛かったらしい。
健は、その勢いで飛び起きてしまった。
島木は口をあんぐりさせながら、健と男を見た。
「いつまで寝ているんだ?」
「いてええなあ。って、寄田!?」
「なんだ? その意外そうな顔は?」
「いやあ。まさか、依田が来てくれるとは思わなくってねえ」
オーバーヒートしたわりには元気じゃないかと、恭一は目を細めて健を見る。
「本当にのんきなやつ」
「それが俺なんだよ!! くるぞ! 依田!」
「わかっている」
吸血鬼は起き上がると、怒りに狂った視線を恭一や健に向けると飛び上がり、彼らに襲い掛かってくる。
「おそいんだよ!」
恭一が印を組むと目の前に野球ボールほどの大きさの炎の球が姿を表した。それをおもいっきり吸血鬼にめがけて投げつけた。
炎の玉は吸血鬼の黒いマントを焼き尽くし、吸血鬼は立ち上がることさえもできずに、そのまま地面に崩れ落ちる。視線だけが健たちを捕らえて離さない。
「裏切りもの」
突然、吸血鬼から声がもれた。
その声に健も恭一もはっとする。
一瞬戸惑った。その憎悪のこもった声、誰に向けたものだろうか。
おれなのか?
健はおもった。なにを裏切った?
そんなことを考えている間に、吸血鬼が島木を押し倒した。動けぬように馬乗りになり、再び島木の肩にかぶりつく。
「島木さん!!」
健はすぐにカードを吸血鬼へ向けて投げつけるも、その手前の床に突き刺さった。
「くそ!」
健は舌打ちをするとすぐさま吸血鬼を島木から切り無すべくして駆け寄ろうとしたとき、吸血鬼は島木を解放すると今度は健のほうをみる。
健は一瞬立ち止まる。
「嶽崎!?」
恭一の叫び声が聞こえたかと思うと健の肩に激しい痛みが走った。気づいたときには栄治の顔が自分の顔のすぐそばにあり、その牙が肩に食い込んでいた。
そして、健の頭のなかに突然情報が勢いよく流れ込んできた。
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