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しばらく大ザルだった男を見ていた尚隆は、ポケットにいれていたナイフを取り出すなり自分の腕を切りつけた。すると、そこから血が流れてくる。それを確認するとぐったりと倒れている男のすぐそばまで近づいた。そして自分の体内から流れ出ている血を男体に落とした。
すると、血は男の体内へと吸い込まれるように消えていく。
それを確認すると、すぐさま男の脈をとる。
「吹き替えしたな。あとは……」
尚隆は立ち上がると、ポッカリと空いた穴の方を振り向いた。
「これもふさいでおかないと不味いな」
尚隆は穴に向かって手を翳すと再び呪文を唱える。
すると、壁が何事もなかったかのように戻っていった。そこまで終えるとホッと胸を撫で下ろす。
「もう一人記憶操作しないとなあ」
尚隆は今気絶している目撃者の狩谷の取り調べしていて、大ざるを遭遇し逃げてしまった警官を探すべくして取調室をでた。
そこは誰もいない廊下だった。
確かにもうすでに就業時刻すぎているのだが、全く人がいないということはおかしいことなのだが、それでも難とも思わないのは意図的に人払いしたためだ。あの時点では取り調べをしていた警官と狩谷ぐらいしかいなかった。
そんな芸当が雑作なくできてしまうのが尚隆の能力だ。
「彼には迷惑かけたなあ」
そんなことを呟きながらも、警官の姿を探す。
やがて息づかいが聞こえてきた。
どうやらデスクの下に隠れていたらしい。
尚隆はようやく見つかったのだとうほっとすると、彼のほうへと近づいた。
警官ははっとしたように尚隆を見る。
「大丈夫か」
そう優しく声をかけるが震えが止まらない。
やがて、デスクのしたから這い出ると、尚隆から距離をとるべくして駆け出した、
「おい。まてよ」
尚隆は追いかける。
やがて、警官が窓辺で立ち止まると不意に体を尚隆の方へと向けた、
そこにはすでに震えもなにもない。
能面のような顔がこちらを向いているだけだった。
尚隆は思わず足を止める。
「楽しいか」
突然男が尋ねる。
その意図が理解できずに怪訝な顔をしていると、虚ろな目のままの男が話を続ける。
「私は楽しい」
「お前、だれだ?」
尚隆はただならぬ気配を感じ、眉間にシワを寄せる。
「くくくくく。楽しい。楽しくなりそうだよ。芦屋尚孝。それに君のその紫の瞳……。その力……」
「誰だ? なぜ俺の名前を知っている?」
尚隆は思わず携帯したいた拳銃を向ける。
「クククク。これは失礼。私の名は
「おち? ソウル? なんの話だ?」
「君はいずれ……。また会おう」
そういった瞬間、突然警官が内側から風船のように膨れ上がり始める。
尚隆はハッとする。
「まずい」
手を伸ばしたが、風船はバンとはじけるようにわれ、そこからおびただしい血液が尚隆の体に飛び散る。
尚隆が目を見開く。
警官の姿はなく床や壁に血糊がベッタリとついているだけだった。。
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しばし休憩でーす。
次回は9月6日予定
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