「……つ……よ……し……」


 吸血鬼の口からもれる名前に健ははっとする。吸血鬼が自分のほうを見ている。その瞳はかつての親友そのものだった。


「……栄治……おまえ……」


「俺たち、友達だろう? 一緒にやろうぜ」


 栄治の顔をした吸血鬼はニヤリと笑みを浮かべる。


「父親をこんなめあわせておいて、なにをいってやがる!?」


 吸血鬼はすでに意識を失い、ぐったりと倒れている島木をみるも興味も示すことはなかつた。すぐさま健のほうへと視線をむける。


 再び襲ってくると健が身構えていると突然別の方向に顔を向けた。


「……面倒なもの……来た……」


 吸血鬼は突然踵を返したかと思うと、煙のように消えていく。



「おい! 栄治!」



 健は追いかけようとするも全身に激痛が襲ってきて動けなくなってしまった。


 すぐそばにいた恭一が攻撃を仕掛けようとするとすでに吸血鬼の気配はどこにもなかった。


「くそっ!」


 恭一は舌打ちをする。


 バタン!


「おい! おまえ!」


 恭一は力なく倒れてしまった健のほうに近付く。



「へえ……おまえ……やさしいところ……あるじゃん……」


「しゃべるな。ばか」


 健はぎこちない笑みを浮べたかとおもうとそのまま気を失った。


「崎原! 依田!」


 恭一が振り返るといつの間にか尚隆と詩歌が駆けつけていた。


「嶽崎!?」


 詩歌は健の様子をみて顔を青くする。


 


「なにがあったの?」


 呆然と詩歌が恭一に尋ねた。


「吸血鬼だ」


「え?」


「『核』を持った吸血鬼にやられた。早く、救急車を!」


 恭一らしくなく声を荒くする。


「わかった。赤城。すぐにルリカに連絡しろ!!」


「え? ルリカさん?」


「こういうのは、騒ぎを大きくしたくない。だから……」


 その意味を理解した詩歌は、すぐさまスマホを取り出しルリカに連絡を取る


 その間、尚隆は注意深く店内を見回す。


「依田。そいつは?」


「にげた。面倒なものが来たと言って逃げやがった」


「来た? どういう意味だ?」


「わからねえ。でも、リーダーのことじゃないかなあと思ってる」


「俺? なぜだ?」


「なんとなくだよ。あいつらリーダーに興味津々みたいだしな」


 確かにそれは尚隆自身も感じていることではある。なぜ尚隆に興味を示しているのか現段階ではまったくわからない。ただ自分の失われた記憶に関わることなのかもしれない。


「……もしも……」


「リーダー?」


 尚隆は詩歌たちが怪訝そうにみていることに気づくと、なんでもないのだとはぐらかした。


「元に戻す」


 そういうと手のひらを床へと向けてぶつぶつと呪文を唱えた。



 すると、吸血鬼によってばらばらになっていたはずの店内のすべてのものが何事もなかったかのように元通りになる。


 それを確認するとぐったりと倒れている島木を担ぎ上げた。



「依田」


「わかっている」


 恭一もまた健に肩を貸した。


「赤城」


「はい、いま連絡つきました」


「騒ぎが大きくなる前に外へでよう」


 尚隆たちは店を出ることにした。








 まもなく逃げていたはずの店員や客が訝しげな顔で店に戻ってきたり


「おれたち。どうして外にいたんだ?」


「さあ?」


 どんなに探っても、彼らには異形の存在の記憶はすでになかった。



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