⑤
もうあたりは薄暗くなっていた。そのために、すでに生徒たちの姿も学校にはない。
吉川玲奈以外の先生たちの姿も職員室にはまったくなかった。
玲奈は残業をようやく終えて、職員室の扉を開いたときであった。
廊下も真っ暗であったのだが、確かに人影が玲奈には見えた。
長身で、長い髪。背格好からいって成人をすぎた男であることは容易に想像できる。
「あの~どちら様ですか?」
彼女はその男に話しかけた。
男はじっと彼女のほうを見ると、不気味な笑みを浮かべた。
その笑みに玲奈は恐怖を覚え、息を飲み込んだまま、男に視線を向けた。
「あなたが吉川先生ですね」
突然、名前を呼べれて、一瞬犯罪者にでもなったような気分で自然と体がきんちょうしてくる。
「そうですけど」
なにか悪いことでもしたのだろうかと玲奈は自問自答してみるも、まったく覚えはなかった。それなその男には見覚えがない。
「そうですか。吉川先生。私とちょっと来てもらえますか?」
「え?」
何を言い出すのだろう?
自分をどこへ連れていこうというのか。見知らぬ男の誘いで不信感と恐怖に足がすくむ。無意識に体を震わせ、まるで金縛りにでもあったかのように言葉さえも出なくなった。
男はそれを知ってか知らずか、微笑みを浮かべながら、
「大丈夫です、時間は取らせません。すぐに終わりますか。『巨人』がお待ちかねです」
と告げる。
その瞬間、彼女の体が凍りついていく。一瞬男が何をいっているのかわからなかった。されど、それを理解した瞬間、先ほどの怯えが嘘のように冷静になったいく。
「わかりました。いきます」
彼女は一度深呼吸をすると、まっすぐに男のほうをみた。
「では案内しますよ。こちらはどうぞ」
男は丁寧に会釈すると彼女に背を向けた歩き出した。
玲奈はもう一度呼吸を整えると、男のあとに続いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます