「くそっ! 崎原さん! 健が……!」


 淳也が手に持っていた銃を『巨人』に向けながら駆け出しながら叫ぶも、大悟はいまだに状況が把握できない様子で呆然としている。



(くそ!どないするねん!! 健が捕まったまんまやし。崎原さんは心ここにあらずやないか!)


 淳也は心のなかで愚痴りながら、健に当たらないように弾丸を打ち付ける。命中はしているが、『巨人』はまったく動じている様子はない。一度こちらのほうへと視線を向けるとすでに意識を失っている健を淳也にめがけて投げつけた。


「うわわ」


 淳也は慌てて健の体を全身で受け止めるとそのまま後方へと飛ばされ、地面に激突する。


「いてえ。健、大丈夫か?」


 淳也は自分の上でぐったりしている健の様子をうかがうと、うっすらと意識を取り戻していることがわかる。


「なんとか……」


 健は意識を取り戻すも全身の痛みに顔を歪める。


 淳也はホッとすると、大悟の方を見る。


「崎原さん! 崎原さん!」


 何度も呼び掛けるが、反応はない。


「崎原さん! なにしとるねん!」


 淳也は健をそっと床に寝かせると銃口を『巨人』に向けながら立ち上がった。


「おれが倒したる!」


 淳也はトリガーを弾こうとする。しかし、それよりも早く『巨人』の大きな腕が淳也のすぐ目の前まで迫っていた。たちまち淳也はその手に囚われる。


「やめろおおお!!」


 健と同じように握りつぶされるかと思いきや、突然淳也は背後から引っ張られそのまま後方へと投げ飛ばされる。


「崎原さん!?」


 淳也がハッと顔をあげるとそこには大悟の背中があった。


「ごめん」


 大吾は背中を向けたまま謝る。


 大悟の前に立ちはだかる『巨人』は、突然天井を仰ぎながら絶叫する。再び大悟を見た。



「崎原くん。崎原君が私を……私を……!!」


『巨人』からは女性の絶望したような声が聞こえてくる。


「いやぁああ!!」


『巨人』は叫びながら職員室の扉を破壊して廊下へ飛び出した。


「吉川さん!!」


 大吾は声を上げるもすぐには追いかけず、淳也と健のほうを振り向く。


「崎原……さん_…」


 すると健がいまにも消えそうな声で大悟にかたりかける。



「行って……。……おれは……大丈夫だ……大丈夫だから……」


「けど……」


 大悟は心配そうに健を見る。


「俺は大丈夫。じきに屋さんたちが来るから……」



「わかった。僕たちはいくよ」


 淳也は大悟の方を振りかえる。


 その目にはもう迷いはなかった。


「じゃあ、おれたちは行くで! 無理すんなよ」


「わかってる……。早くいって……。被害が広がる前に……」


 淳也と大悟はお互いに見合わせるとどちらからともなく頷く。


 そして、『巨人』を追いかけるべくして駆け出する。


 それを見送った健はそのまま意識を失った。



 


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