拒絶?


 その言葉が大悟の胸に刺さってくる。


 また拒絶した。


 それはいつのことだったのだろうか。


 いつ彼女を拒絶したのか。


 そんなこと考えるまでもない。


 あの事件があって数日が過ぎたころのことだ。あんなに大騒動になったと言うのに何事もなかったかのように卒業式を迎えた。


 そして、彼女からの告白。


 正直、大悟も彼女に好意を抱いていたし、嬉しかった。だけど、それを受け入れることができなかったのだ。なぜならあの騒動で自ら持つ力を知られることを恐怖した。


 もしも彼女が知ってしまったら離れていくに違いないと言う想いがあったからだ。なによりもそれが怖い。


 たとえ、彼女がを好いてるとしても特殊な力をもつ自分を拒絶するにちがいない。


 そんな想いが自分の気持ちを押し込めて彼女の告白から目をそらすしかなかった。結果的に自分が傷つかないようにするために彼女をひどく傷つけることになった。それを知りながらも拒んでしまった。



「私はずっと好きだったの。ずっと……。いまもずっと……」



 彼女が手を伸ばしている。本当はその手を取りたかった。抱き締めたかった。それをすることができずに突き放したのは大悟自身だ。


 いま目の前にいるのは十年前の面影を残しながらも大人の女性へと変わっており、いっそう美しくなったように感じる。いますぐその手をとって抱き締めるべきなのだろうか。


 大悟は近づいてくる彼女をじっと見つめていた。



「崎原君!!」


 大悟は健の叫び声にはっとする。


「崎原さん! しっかりするんや。なんか変やで!」


 淳也は大悟の腕をつかみ彼女から距離を取らせながらその間に割り込んだ。


「あなたはだれ?」


「眼を覚ますんや! あんた、『核』に飲み込まれてまう!」


 淳也は思わず叫んだ。


「あなたは私たちの仲を邪魔するのね」


 彼女は目を見開かせながら頭を傾ける。


「吉川さん……」


 大悟が呼び掛けるも彼女は目を見開かせ首が折れ曲がるほどに顔を傾けたまま大悟たちをじっみている。しかし、やがて彼女の肌がみるみると茶色く変色していき、やがてただれ落ちていく。やがて彼女の原型は失われていくと同時に改たに黒い皮膚がうまれ、小さな口が大きく裂けていく。キレイに揃っていた上歯の両端が口からはみ出すように大きく延びていく。一瞬見えなくなった二つ目は赤く染まり眼球が飛び出してくる。


 傾けていた頭を元に戻すと同時にその額からは一本の角が生えてくる。


 女性らしい体つきもみるみると筋肉が盛り上がっていき、やがて性別さえも判別できなくなっていく。体格は二メートルを越すほどの大きさに膨らんでいった。



「まさか……“巨人”……」


 大吾が叫んだ。


「え?」


 健と淳也は、目を大きく見開き、声を張り上げる。


 そのすきに『巨人』は突然健の体をわしづかみにして自分に体に引き寄せた。


「健!!」


 大吾と淳也は叫ぶ。


「邪魔をするな!崎 原くんは私のもの!」


『巨人』から発せられる声は確かに大吾の知っている人物吉川玲奈の声であった。


『巨人』の声が聞こえたかとおもうと、それはわしづかみした健をその大きな手で握り締めていく。


「うわああ」


 健はあまりの痛みに悲鳴を上げた。


「健!」


「嶽﨑くん!」


 淳也は健を解放するために持っていたナイフを取り出して、駆け出す。


 大吾のほうは呪文を唱え始めた。


 淳也はすぐさま銃を構えて狙い打とうと構える。


 しかし、其れよりも早く『巨人』は淳也の身体を大きな腕ではじき飛ばした。


「日比生くん!!久坊くん!!」


 大吾の目の前で、健は『巨人』の腕の中に、淳也は壁に激突してそのまま崩れるように倒れこんでいた。


 大吾は、目を大きく見開いたかと思うと『巨人』を睥睨する。


「崎原くん」


 しかし、『巨人』から漏れる声に大吾ははっとさせられた。


 そのとたん、『巨人』に彼女の姿が重なる。


 大吾は、攻撃を躊躇せざる終えなくなり、その場にたちつくしてしまった。


「崎原さん」


 壁にたたきつけられた淳也は痛む体を引きずりながらも起き上がりながら、大吾の後姿をみつめた。


 それに気付いて、大吾は振り返る。


 淳也ははっとした。


 なんとも情けない表情をしているのだろうか。いつものんびりとした口調で落ち着いた雰囲気のある男の姿が、いま小さな存在に見える。


「崎原さん!しっかりしいや!」


 淳也が叫ぶとすぐに二等銃を構えた。


そのまま銃口を向けるも、健が捕らえられたままだ。それゆえにトリガーを引けず歯をぎっと噛む。


 『巨人』はさらに強く健を握り締める。

 

 健の瞳孔が大きく見開かれる。唇から血が流れたかと思うと、そのまま気を失った。


「健!」


『巨人』は見ながら愉快そうに笑っていた。








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