相変わらずなおチビちゃんと俺

「じゃねー!」

「また明日!」

カラオケを出てすぐ、ミチ、アヤカ、アキラと別れた。

帰り道を、沙希と二人で並んで歩く。

「なんでアキラまで来たんだろうな。」

何気なく言った俺を、沙希は呆れ顔で見た。

「なんで、って・・・・ミチと付き合ってるからじゃないの。知らなかったの?」

「えっ?!マジで?!」

「どんだけ鈍いのよ、高宮 漣。あっ!」

沙希が慌てて口を手で塞ぐが。

「あと1回だなぁ、沙希。」

俺は心の中でガッツポーズだ。

「・・・・ふんっ!」

久々に見る、悔しそうな沙希の顔。

呼び方を変えてくれと言った後も、なかなか沙希のフルネーム呼びが直らず、俺は沙希に約束をさせたのだ。

【5回フルネーム呼びする毎に1回、俺の言うことを聞く】

本当は、3回毎に1回にしたかったけど、相手はあのおチビちゃんだ。

そこを敢えて5回にしたのは、3回の累積なんてあっという間だろう、という、俺の仏心。

なのに。

もう既に、累積4回だし。

おチビちゃんのボケッぷりは、衰え知らずで健在だ。

「楽しみだな、早く考えておかないとなぁ。でも、さすがにこんなに早いとは思わなかったぞ。いやぁ、参ったな。」

「うるさいわねっ、馬鹿じゃないんだから、もう絶対言わないわよ!」

「どうだか。」

「ほんっと失礼ねっ、たかみ・・・・っ!」

言ったそばから、沙希は慌てて口を両手でおさえ、上目遣いで俺を見る。

「ん?今、なんて?」

「セーフよっ、セーフ。途中で止めたし。」

「だよなぁ?馬鹿じゃないんだから、さっきの今で、そんなすぐに言うわけ無いよなぁ?」

言いながら顔を覗き込むと。

「ふんっ!」

うっすらと顔を赤くして、沙希はプイッとソッポを向いてしまった。

付き合い始めてからも、俺たちの関係はこんな感じで相変わらずだ。

宝箱は、あの時確かにおチビちゃんが開けてくれたんだけど。

中身を取り出すのが、惜しいような、もったいないような。

でも、早く取り出して、自分のものにしてしまいたいような。

・・・・って、ここにきて何グズグズしてんだ?俺。

「ほんっと、お前って・・・・」

「なによっ。」

ギロッと睨んでくる沙希の頭を、

「面白いヤツ。」

(可愛いヤツ。)

俺は両手でワシャワシャにしてやった。

「ぎゃっ!なにすんのよっ、高宮 漣っ!あっ・・・・」

呆然とした顔で、口を手で抑えることも忘れて、沙希は口を『あ』の形に開けたまま、目だけをゆっくり動かして俺を見た。

ここは本来、ガッツポーズを決めるべきところなんだろうが。

さすがに、呆れが先に来てしまう。

「・・・・そうか。お前、そんなに俺の言うことが聞きたかったのか。」

「ちっ、違うわよっ!そんな訳・・・・わっ!」

クシャクシャになった髪を直しかけて固まっていた沙希の手を取り、俺はそのまま歩きだした。

「今日はこのまま、お前んちまで送ってく。」

「えぇっ?!」

チビすけの抗議の声は、当然、無視。

だって。

「累積5回、おめでとう。」

くぅぅぅぅっ!と。

悔しそうに唸りながらも、沙希は控えめながら、俺の手を握り返してくれる。

うん。

そうだな。

俺たちは、こんな感じで行くのがいいのかもしれない。

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