おチビちゃん 最後の挑戦(& 俺の挑戦)-1

「なぁ、ミチ。」

「なに?」

帰り支度中のミチに、俺は声をかけた。

「大野の・・・・大野 沙希の連絡先、知ってる?」

ミチがおチビちゃんと繋がってることは、もう分かっている。でも、敢えて知らない振りをして、聞いてみた。

ミチは、驚いた顔をしている。もしかして、何か警戒させてしまっただろうか?

「知ってるけど、なんで?」

「ちょっと連絡とりたいんだけど、さ。俺、知らないんだよ、大野の連絡先。」

「え?」

嘘でしょ?

ミチの目が、そう言っていた。

まぁ、そうなるよな。

俺だって、そう思う。

おチビちゃんとは、なんだかんだで結構長い付き合いになってきていたし。

でも、知らないものは知らないのだから、仕方ない。

「悪いけど、駅の向こうの川の、堤防下の河川敷にいるから来てくれって、伝えてもらえるかな。あと、寝てるかもしれないから、寝てたら起こしてくれって。」

念のために、ちょっと寝不足でさ、と付け加えておく。

「あ、うん。わかった。」

「サンキュ。」

おチビちゃんのクラス、今日の6限は、体育だ。学校を出るまで、他のクラスよりもちょっと時間がかかるだろう。

俺は急いで学校を出て、駅の向こう側を流れる川の、堤防下にある河川敷に向かった。


「あ~・・・・気持ちいい。」

思わず、そんな言葉が出てしまう。

割りと広いこの河川敷では、小学生たちが野球をしていたり。

おじさんがランニングをしていたり。

お姉さんが犬の散歩をしていたり。

川の方からはイイ感じに風が吹いてきて、この場所だけ、他よりのんびりと時間が流れているような気がする。

駅を挟んでいるせいか、うちの高校の制服を見ることは、稀だ。

そう言えば、おチビちゃんと一緒に来たことは、無い。

おチビちゃんだけじゃなく、他の誰とも、一緒に来たことは無い。

ここは俺の、お気に入りの場所。

何も考えたくない時。

のんびりしたい時。

一人になりたい時。

いつも俺は、一人でここに来ていた。


高校に入って、気づけばもう二回目の夏を迎えようとしている。

おチビちゃんに出会ってから、既に丸一年以上経っている。

おチビちゃんの告白を条件付きで受け入れてからは、一年弱くらいか。

「どんだけ掛かってるんだよ、あいつ。」

小さく毒づいてみる。

おチビちゃんに条件提示をした時は、まさかこんなことになるなんて、全く想像もしていなかった。

すぐに付き合いが始まって、そしていつものように、すぐに終わるものだと思っていた。

結局俺は、いつも想像の斜め上を行くおチビちゃんに、してやられていたような気がする。

気がする、ではない。してやられていたんだ。

いつの間にか、ドハマリしていた。

大野 沙希という人間に。

おチビちゃん自身は、きっと自覚なんてしていないだろうけど。

そこが、救いでもあると同時に、悔しくもあり。

「はぁ・・・・。」

鞄を枕に、俺は草っぱらの上にゴロリと寝転がった。

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