3回目の告白
「ちょっと来なさい、高宮 漣!」
次におチビちゃんが俺の所へやってきたのは、俺が彼女と別れた日の翌日の昼休み。
突然、教室の扉を勢い良く開け、俺の姿を見つけたとたんに、大声で俺を呼びつけた。
「えー、俺これから購買にパン買いに行くんだけど。」
教室にいたやつらは皆、おチビちゃんと俺のやりとりを、あっけにとられて眺めていた。
まぁ、俺をフルネーム呼び捨てで呼ぶ女子なんて他にいないし、いきなり呼びつけるような女子もいないし。
普通に答える俺にも驚いたんだろう。
俺自身は馴れてしまったのか、もう驚きは無い。
「パンなら、あなたの分も買ってあるわ。」
そう言っておチビちゃんが得意気に高々と(とは言ってもチビだから、せいぜい俺の目線の高さだが)掲げて見せたのは、売り切れ必至の『具材たっぷり 揚げたてカレーパン』。
(マジか!)
決して、『具材たっぷり 揚げたてカレーパン』に釣られた訳ではないが。
「どこに行けばいいんだ?」
そう尋ねると、おチビちゃんは勝ち誇った顔を見せ、俺を先導するべく歩き始める。
埋めようもないコンパスの差であっという間に追い付いた俺は、そのままゆっくりと、おチビちゃんの後を付いて行った。
辿り着いたのは、校舎の屋上。
はい、と渡されたカレーパンを頬張りながら、俺は一応おチビちゃんに聞いてみた。
「で、今日はなに。」
「私の情報網を、甘く見ないで欲しいわね。」
俺のとなりで同じくカレーパンを頬張りながら、おチビちゃんはにんまりと笑う。
「あなた今、フリーよね?」
(怖っ!相変わらず、情報早っ!)
「ストーカーかよ、おチビちゃんは。」
思わず、そう呟いてしまったが。
「ちょっとっ!失礼なこと言わないでよ、高宮 漣!」
憤慨した様子で、おチビちゃんが立ち上がって俺の正面で仁王立ち。
ちょうど、座った状態の俺と目線が合う。
(・・・・あれ?)
俺はこの時初めて、おチビちゃんの顔をちゃんと見た気がする。
思いの外、可愛い。
気がした。
(・・・・いや、気のせいか?)
「いい?ちゃんと聞きなさいよ、高宮 漣。私の名前は、『おチビちゃん』じゃなくて、大野 沙希。そして、わたしはストーカーなどではないわ。ただちょっとだけあなたへの想いが強いがために、使える情報網を全て使って、あなたの情報を集めてるだけよ。」
(世間ではそれを、ストーカーと呼ぶのではないのか。)
どや顔のおチビちゃんは、そう言ってキラキラとした目を俺に向ける。
「だから、私と付き合って。」
「断る。」
おチビちゃんの言葉に被るくらいの勢いで、俺は断りを入れた。
確かに、俺は今フリーだ。一応は。
高飛車だし強引だしストーカーだけど、カレーパンくれたし、別におチビちゃんが嫌いなわけでもない。
だが。
「えぇっ?!なんでっ?!」
やはり、まさか断られる想定は全くしていなかったのか。
目を見開いているおチビちゃんの前に、俺はポケットから取り出した可愛らしい封筒をヒラつかせた。
「貰っちゃったから、これ。ついさっき。」
「・・・・はっ?」
「ラブレター。」
封筒を凝視し、おチビちゃんはまた、あの顔を見せた。
悔しそうな、哀しそうな、泣き出しそうな、でも、怒ったような。
そしてやはり、
「ふんっ!」
の一言を残し、身を翻して校舎へ戻る階段へと向かう。
その背中に、俺は声をかけた。
「カレーパン、ごちそうさん!ありがとな!」
振り返ったおチビちゃんの顔。
(あ・・・・)
ゆでダコみたいに真っ赤な顔で、今にも泣き出しそうな、それでいてどこか嬉しそうな。
(やっぱ、可愛い・・・・かも?)
そんな顔で、おチビちゃんが発した言葉はやはり、
「ふんっ!」
の一言だけだった。
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