第26話 情報屋マナ(2)
マナはそう言ってから、情報となるその話を始めた。
ハンターを狙っているのではないか、と言われているその通り魔には、犯行のルールのようなものが存在していた。何故そのようなことが分かるかと言えば、何人も被害に遭っているためで、その解剖や調査を進めた結果、法則性が見えてきたためだった。
「……法則性、ったって何があるんだ? 女性を狙わない、とか?」
「そんな単純なことだったら、女性ハンターはヒヤヒヤしないで良いんだろうけれど……、残念、そうじゃないんだよねぇ。ハンターには、誰もが持っているあるものがあるだろう?」
「あるもの……。ハンターライセンスか?」
「半分正解。五十点にしよう」
マナの言葉に首を傾げるユウト。
「ほかに何かあるのか?」
「ハンターは外に出てミュータントと戦う危険を孕んでいる。ってことは、武器を持っているはずじゃないか。ユウト、君だって拳銃を持っているんだから、それぐらいは分かっていると思っていたけれど」
「ああ、武器か……。当たり前過ぎて、あまり考えられなかったな」
ハンターは遺跡で遺物を手に入れることがメインの仕事にもなっているが、それと同等に存在する仕事として、シェルター間の護衛やミュータントの撃破などが挙げられる。
ミュータントは、遺跡をテリトリーとして活動していることは判明しているが、ごくまれに遺跡以外の場所でも確認されている。例えば、商人が通るシェルターロードと呼ばれる街道だ。街道には、定期的に整備が為されている目印が設置されており、商人はその目印を元にシェルターへと向かう。しかし、裏を返せばその目印さえ判明してしまえば、ミュータントだって商人を狙うことが出来るのだ。
「……ミュータントから身を守るために、ハンターは武器を用意している訳だけれど、その武器は危険性もある。ミュータント自体がそもそも人間よりも強い存在な訳だし、そのためにチューニングされた武器を人間に使ったらどうなるか……、答えは火を見るより明らかだよね」
「理屈は分かる。だが、武器を盗んで何になる? 俺みたいに拳銃なら、盗んだところで大きくないかもしれないが、例えばマリーなんてどうだ? あいつは背負わなければならないぐらい大きな剣だぜ。ルサルカだって……弓矢だ。決して人目を掻い潜れるような代物ばかりじゃないとは思うが」
「それがネックというか、疑問なんだよねー。通り魔は武器とハンターライセンスを盗んで、被害者を殺害している。けれども、それに何の意味があるのか? どうしてわざわざリスクを負ってまで、それを手に入れようとしているのか?」
「承認欲求、或いは証拠でも欲しいんじゃないかねぇ」
口出ししたのはマスターだった。
「マスター、何か心当たりでも?」
「心当たりというか、予想だね。……きっと、犯人は殺した相手のファイリングでもしているんじゃないか? 実績作りとでも言えば良いのかねぇ……、自分はこういう相手を殺害したんだ、という実績をすぐに確認出来るようにするために、敢えてハンターライセンスと武器を回収したんじゃないかね」
「……成程。まぁ、理屈は分かる。つまり、ハンターが狙われているから注意しろ、と?」
ユウトの早合点に溜息を吐くマナ。
「ユウト……、言いたいことは分かるけれど、そんな単純に片付けて良いことじゃないんだよね。そりゃあ、一言で言えばそういう結論に落ち着くのだろうけれど、少しは気をつけた方が良いかと思うけれどなぁ……」
「うん。まあ、それは分かるよ。気をつけないといけないことぐらいはね。けれどさ、気をつける……って一体何を気をつければ良いんだよ。ハンターだけが狙われる通り魔だろう? その通り魔をどう退治するか、って話に持って行きたいのか?」
「それ、無理だと思うけれどなぁ……。だって、通り魔に関する情報は皆無。というか、重たい武器を平気で回収出来るんだから、それなりに力は持っているだろうね。……だから、こう呼ばれているんだよ、その通り魔」
――
「……ファントム、か。いかにも子供が好きそうなネーミングだけれど、一体誰が考えたんだ?」
「セブンス新聞社の敏腕記者って言われているけれど? タブロイド記事に載っていたしねぇ、今日もまたファントム出現する! って」
「最早、自分の犯罪を演劇か何かだと思い込んでいるのかね……。だとすりゃ、非常に厄介な人間であることは間違いないのだろうけれど。いや、そもそも人間なのかどうか……」
「人間ではないとしたら、何だって言うんだ? ミュータントがシェルターに侵入しているとでも言いたいのか?」
「それが分からないから問題なのよねぇ……。いっそ、ハンター連盟にクエスト依頼でも出してみようかな。そうすれば、ミステリに興味を持ってくれているハンターの一人や二人ぐらい見つかりそうだし」
マナが立ち上がろうとすると、外が騒がしいことに気づいた。
「……何だ? さっきから外が騒がしいような気がするが――」
ユウトの言葉が終わるよりも早く、マナは外へと駆け出していった。
「おい、マナ。一体何処へ……」
「分からないのか。出たんだよ、ファントムが! 急いで見つけないと、現場に入ることすら出来なくなっちまうよ!」
マナはそう言うと、そそくさと外へ飛び出していく。
それを見たユウトとルサルカはお互いに見つめ合ってから、
「……ユウト、見に行きましょう。少しだけ興味があります」
「はいはい。なんかそんな感じがしましたよ……」
というルサルカの鶴の一声によって、ユウトとルサルカも現場へ急行するのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます