第3話 第七シェルター(2)
「ケンスケ、どうしてここに?」
「買い出しだよ、見りゃ分かるだろ」
ケンスケの両手には、ビニール袋が一つずつ埋まっていた。ビニール袋の中には大量の物品が入っているようで、パンパンに膨れ上がっていた。
「買い出し……って、またマスター材料計算間違えたのか?」
「いや、それは分からないな。安い日に買い出しするのが当然だろ、なんて言っていたけれど、何処までほんとうなのやら……」
「あの、こちらの方は?」
「うん? あ、ああ……こいつはケンスケ。同じ店の二階で暮らしている……、まあ、腐れ縁というか、そういう感じかな」
「いや、説明しろよユウト! 誰だよこんな可愛い子。いったい何処で出会ったんだ?」
「あ、えーと……それについても、マスターに話しておきたいんだよな。マスター、今居る?」
「さっきは居たと思うけれど……。何か訳ありって感じか? まあ、そういうのは良くある話だからな。ま、取り敢えず袋どっちか一つ持ってくれよ。重たくてしょうがねえんだ」
ケンスケから言われて、ユウトはビニール袋を一つ受け取った。中を見ると、瓶や箱や缶詰が沢山入っている。
「……相変わらず、こういう変わった物が好きなんだな。別に配給の栄養食で悪くないっちゃ悪くないのに」
「それ、美味しいと思っているのお前だけだからな。あれ、人間が食べるために開発された物じゃねえよ、どう考えたって。先ず味覚が否定されるからな、無だよ、無」
「そうかねえ……。俺は別に悪くないと思うんだけれどね。あ、別にマスターの料理が美味しくないだとか、そういうことを言っている訳じゃないからな。それだけは言わないでくれよ。マスター、結構本気で捉える節があるからさ……」
「はいはい、言わないでおくよ。俺も何か言われたら面倒だからな。で、彼女の名前は?」
三人はゆっくりと歩き始める。ユウト、ルサルカ、ケンスケといった感じで並んでおり、二人がそれぞれ外側にビニール袋を持っている形だ。
「彼女の名前はルサルカ。彼女と何処で出会ったか、ということについては……マスターに会った時に話した方が良いだろうな。何せ、二度話すのが面倒だ」
「面倒と言われてもな。……まさか、遺跡に一人佇んでいた、なんて言わないよな?」
それを聞いてユウトはぎょっとした表情を浮かべてケンスケを睨み付ける。
「うわっ、いきなり睨み付けるなよ、怖いな……。というか、それぐらい考えつきそうなもんだろ。実際、何処で出会ったかなんてシェルターの外か中のどちらかなんだからさ。で、一緒に外から帰ってきたってことは……そう考えるのが自然だろ?」
「……それ、絶対誰にも言うなよ」
「え? ああ、まあ、言わないよ。……だって、セキュリティ的に大問題だろ。遺跡で拾った女の子をシェルターに持ち込むって。何か未知の病原菌でも持ち込んできたらどうするんだよ。ま、それよりもガスの方が怖いけれどな」
「それは同感。……彼女のことなんだけれどさ、何か思い当たる節はないかな。何か、家族を探しているようなんだよ」
「家族を? あの遺跡で? 虫一匹見かけたこともないと言われている、死の大地で?」
「そりゃあ、俺だってそう思ったけれどさ……。あんな場所で家族を探しているなんて言われて、放っておける訳がないだろ」
ユウトの言葉に、ケンスケはせせら笑う。
「ユウトは何でも助けたくなる性格だからな。ヒーローに向いているぜ、その性格」
「ヒーローなんて辞めてくれよ。そんな高尚な物になれる訳がない」
「冗談で言っているだけだろ。まあ、気になる節はあるけれどな……」
「思いつくことがあれば、何だって良い。何かないか? あの遺跡に誰かが住んでいたとか、彼女の家族らしき人物が彼女を探しているだとか――」
「そういうことこそ、やっぱりマスターに質問するのが一番じゃないかなあ……。ほら、あの人情報網は凄いからな。第一シェルターから幅広い人間に連絡出来るって話らしいし。他のシェルターに連絡をするだけでも面倒だし金がかかるって言うのにな……」
「その……マスター、とはどういう方なんですか?」
「初めて見た人は、先ずその見た目に驚くんじゃないかな。俺はもう慣れたけれどさ……」
「ああ、それは言えているな! こないだやって来た新入りだって、マスターの見た目に驚いていたよな。そんな見た目でマスターなんて言えるのか! だなんて。あれを本人が居ないと思って言ったんだろうけれど、後ろに本人が居ないかどうかぐらいは見ておくべきだったよな」
「あれ、俺達も同意していたら一緒にお説教だったのかね……」
「そればっかりは俺も分からねえな。ただ、相当絞られたらしいぞ。終わった後にロビーに戻ってきたマナの顔見ていないだろ? げっそりと窶れたような感じだったぞ。まるで生気を吸い取られたみたいな感じだった」
「ほんとうに吸い取っていたりしてな。ほら、マスターって見た目変わらないし。実は数百年も生きているエルフの生き血を啜っていても、何ら不思議じゃないぜ」
「エルフが居れば、の話だけれどな……。おっ、着いた着いた」
ケンスケが立ち止まると、ルサルカは上を見上げた。
「……ここは」
「ここがマスターの経営する宿、『アネモネ』だ」
ユウト達が辿り着いたのは、第七シェルターのメインストリートの奥にひっそりと佇む民宿『アネモネ』だった。
「ようこそ、アネモネへ。歓迎するよ、ルサルカ」
ケンスケの言葉に、ルサルカは笑みを浮かべてゆっくりと頷いた。
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