TSして親友の勇者のヒモになった

鯖缶

第1話 

 うるさいほどのファンファーレが王都に鳴り響いている。

 音楽隊もよほど嬉しいのだろう、さっきから音を外しているものまでいる。それもそのはずだ、先日勇者一行が魔族の幹部を1人倒したという。

 今日はその勇者たちが王都で凱旋をしているのである。人類が魔族にはっきりと勝利と言える勝利を飾ったのは約10年ぶりだ。

 聞いたところによると今代の勇者は歴代でもっとも強いらしい。


 そんな勇者の名前は「リィン」。僕の幼馴染であり、親友だ。


 広場の中央でリィンがスピーチをしている。

 吐きそうだ。それもリィンの口調がおかしいせいである。

 いやおかしくは無い、むしろ丁寧だ、丁寧すぎる。昔は一人称は俺で割とガサツな奴だった。しかし今壇上で話しているリィンはまさに理想の勇者といった感じの口調で昔のリィンに慣れている僕からすると非常に気味が悪い。

 鳥肌がヤバい。

 リィンのスピーチを群衆の中から聴いていると何やら怪しい雰囲気を纏った男がリィンを見ていた。嫌な予感がする。

 僕の勘は昔からよく当たるのだ。

 その男は懐からナニカを取り出しリィンに向かって放った。僕は咄嗟にリィン達の隊列に向かって飛び出しそのナニカをナイフで切った。しかし切った感触は一切無くナイフは虚空を切り裂く。

 突然のことで群衆がざわついている。

 

 『チッ』

 

 男はそのまま消えてしまった。そしてそのまま僕は勇者一行の護衛の騎士に取り押さえられる。

 ここで状況を整理してみよう。

 僕の格好は外套にフードを被り、ナイフを持って勇者に構えている。おそらく騎士の角度からはあの何かは見えていなかったのだろう。

 

 うん、ただの襲撃者である。僕は弁明しようと抗うも、王都の騎士たちは全員、精鋭だ。僕はそのまま抵抗虚しく、騎士達に気絶させられ連行された。


 僕は独房で尋問を受けていた。どうやら最近リィンは暗殺者に狙われていたらしく僕も其の1人では無いかと疑われているらしい。

 

 「そんな訳ねえだろ、リィンを呼べ!あいつだったら僕の話を聞いてくれるはずだ!」

 「勇者様はお前なんぞの話を聞くほど暇では無いんだ。さっさと質問に答えろ。早めに言ったほうが罪も軽くなるぞ。」

 

 騎士達は聞く耳を持たず怪しい男のことも全く信じてくれない。

 

 「しょうがない、これは使いたくはなかったんだが…」

 

 そう言って騎士が何かを取り出そうとした時、独房の扉が開きなんとリィンが現れた。

 

 「すまないね、ちょっとこの娘と二人っきりで話をさせてくれないかい。」


  相変わらず口調が気色悪いが助かった。そう思い口を開こうとしたが、

 

 「勇者様、しかし…」


  騎士に遮られた。

 

 「私がこのようなものに何かされると思うかい?」

 

 そうリィンが言うと騎士は慌てて

 

 「申し訳ありません!では安全のため、この首輪を付けておきます。」


  そう言い騎士は僕の首にやたらとゴツい首輪をつけた。なんだこれは。

 

 「勇者様、これは隷属の首輪というものです。通常は使うことは禁止されていますが、勇者様の安全のためです。勇者様の魔力を登録しておきますので何か命令したいことがあれば、魔力を込めた言葉を放てばこの者は其の通りに従うでしょう。では、私は牢の外に控えておりますので何かあれば。」


  そう言って騎士は出て行った。今行ったことが気になるが今は

 

 「リィン久々だな!」


 と言うと

 

 「俺にお前のような知り合いはいないが?」

 「おお、やっぱりそっちの口調の方が落ち着くな。僕だよ、ルークだよ。つーか2年で親友の顔も忘れちまったのか?」


 リィンはポカンとしている。どうしたのだろうか。

 リィンは突然剣を抜き、僕に切先を向け


 『お前は本当にルークか?』

 

 といった。

 

 「いやだからそうだって言ってるだろ。薄情な奴だな10年も一緒に暮らしてたのに。というか怖いからその剣をしまってくれ。」

 

 何やらゾワっとしたが質問に答えるとリィンは目を見開きながら

 

 「いやルークお前、女だったっけ?」

 





 ・・・は?

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