第4話 勇者エクスとゆかいな仲間たち
「どうかしたのか?」
今度はレダークが聞いてくる。
「ここの宿、ギルド込だな」
「ああ、すごい人だな」
魔物が現れる噂のせいか大国の首都のとっかかりの外壁都市であるにも関わらず異様に物静かな雰囲気の中、そこだけ喧騒に埋もれている。
入り口の上を見ると看板にはドラゴンをかたどったいかにもなギルドの紋章が刻まれていた。守備も堅固な首都にとどまるよりも外に出るのに都合が良いからだろう。
内と外に挟まれた小さな町は情報の流通も悪くないはずだ。そんなところに冒険者達が集まるのは当然と言えた。
「どうする? 首都はすぐそこだしもう少しがんばってみるかい」
「いや、すぐ部屋に行きゃいいや」
開け放たれたままの扉を一歩くぐると世界が変わる。冒険者の酒場は不安定なご時世とは思えないほど、いやそんなご時世だからこそ? 賑わいでいた。ギルドに加入しないからといってラングがギルド自体を嫌っている訳ではない。
それなのにギルド……なかでも宿付の、とみると嫌な顔をするのは時々待ち伏せるように追っかけよろしい女僧侶がいることがあるからである。
幸いその姿が見えないことを確認して二人は食事を済ませ久々に一息いれた。
風呂をすませ、あてがわれた二階の部屋のベランダで風にあたる。すっかり町の端々まで行き渡ってみえる暗闇の中に、ラングが大きな赤い光をみつけるまで大して時間はかからなかった。
「……間が悪い」
あっという間に噂の魔物は町で一番目立つ……すなわち一番にぎわっている場所、ここである。に目をつけやってくる。赤く見えたのは瞳であった。
「キラーバニーだね」
「なんつーベタな名前だよ」
きゃあー!
予期せぬ巨大うさぎの出現に一階は即、大騒ぎになっていた。女の声に混じって聞こえるのは主に酔っ払いの怒声か気合いの入った冒険者パーティの声である。
まがりなりにも血気盛んな(もしくはアルコールが入ってそうなったのか)その道のプロがあれだけ集まっているのだから問題ないだろう。ラングは動く気配なし。
「ひょっとしてあの魔物、けっこー強い……?」
高みの見物と決め込んでいたベランダで同じように喧騒に参加しないと決めたのか、酒の入ったグラスを片手に隣の男がややもして顔色を変えはじめた。下界は混戦模様となっている。
「揃いも揃って腑抜けだな」
「思うに酒が入っているのがまずかったんじゃないか?」
負傷者まで出る始末である。血のにおいで一気に酔いが覚めた場は騒然となった。
「そういえばあんなでかい奴がでるなんて聞いてないよな~」
隣で男が今更とんちんかんなことを言っている。そりゃ日ごとあんなやつがでれば戒厳令ものだろ。
素面の自警団(当たり前)がストリートのむこうから駆けてくるのが見えた。呆れるラングの足元を殺人ウサギの一撃が抉り取ったのは気をとられたその一瞬だった。
「おや~やる気かうさぎちゃん」
軽く後ろに飛んで躱したラングが事態に巻き込まれて初めて額に血管マークを浮かばせながら白刃の剣を肩にかつぐ。強靭な脚力で二階に上がってきた魔物は木っ端となったベランダをきしませながら低く身構えた。そんな折、
「そこまでよ! 観念なさい!」
闇夜をつんざく女の声に戦場と化した町は刹那、時を止めた。人も魔物も見上げる先にはひときわ高い屋根の上に一組の冒険者とおぼしきパーティが月をバックに影を地に落としていた。
……ま~た、酔っ払いが。
センスを疑わせるその登場ぶりに脱力をかくしきれないまま振るった剣はざくりとふかふか生物にヒットした。
「ラング、あれは……」
「……ひょっとしてハーツの森にいたやつか?」
いわれてよく見ると確かにあの二人だ。もう一人は見覚えが無いが、どうやら素面でのご登場らしいその行動にますます開いた口がふさがらない。更に冒険者のどよめきが追い討ちをかけて苦笑を誘う。
「あれは勇者エクシードじゃないか?」
「そうだ、エクシードと無敵の仲間たち……!」
──失笑。
「まさかその上あそこから飛び降りる訳じゃないだろうな」
完全にアトラクション扱いでラングが冗談を言った瞬間
「さあ行くのよエクス! 今こそその力をみせておあげなさい!」
「って押すなよユージン! 落ち……うわああっ」
エクスは鳥になった。
ごきゅ。
本日の勇者エクシードの対戦成績―─『キラーラビット一匹、刺違え』
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