第9話 ダマスカスの衝撃:2022年7月
(オーストラリアで、T商事と競合するネット取引のダマスカスが始まった)
2022年7月。オーストラリア。メルボルン。T商事オフィス。経営会議。
「諸君。新しく、東京から着任した佐々波くんだ」事務所長が口を開いた。
「佐々波です。よろしくお願いします」
「それでは、早速、今月の経営会議に移る。
タブレットの5ページの今月の取引を見てくれ。レポートのグラフは、30分前に受信した最新のデータに自動的に更新されている」
一同、資料を覗き込む。
「これはなんだ」事務所長がさけんだ。
「今月の取引は、前年同月比20%減だ。
最近の変化を見ると、2か月前には、前年同月比で5%のプラスだ。先月は、5%のマイナス。今月は、20%のマイナスだ。このままのトレンドでいくと半年で取引が、なくなってしまう。
原因を思い当たる人はいるか」
分析担当の大矢が答えた。
「オーストラリアでサービスを始めた、ネット取引サイトのダマスカスの影響と思われます。
ダマスカスを使うと手数料なしで、ネット取引ができます。これには、BtoBと BtoCのサービスがあります。先月からは、日本国内のダマスカス・サービスとオーストラリア国内のダマスカス・サービスの相互乗り入れが可能になりました。つまり、うちのような商社を通さずに直接日本とオーストラリアで、BtoBまたは BtoCができます。もちろん、商社と違って、顧客の信用情報はありませんので、当初は、競争相手には、なりませんでした。しかし、ダマスカスには、過去の取引データをもとにした信用スコアがついています。取引データが蓄積すると信用スコアの精度が上がります。最初は、こわごわと少しずつ行われていた取引ですが、信用スコアの精度が上がって、取引量が、急増しています。このため手数料を嫌って、うちから、ダマスカスの取引に切り替える顧客が増えています。
うちの取引先は、中規模以上の企業が多いです。一方、今まで、海外での販売網を築けなかった小規模企業が、ダマスカスを使って、輸出をし始めました。その結果、うちを通じて輸出をしている企業の価格競争力が落ちています。それで、わが社の顧客も、ダマスカスに移行しているようです」
「このままでは、顧客の減少は止まらないということか」
「危険物や入管手続きの面倒なものは残ると思います。しかし、それ以外では、わが社には、競争力がないと思われます。わが社も、早急にダマスカスのようなサービスを行い、手数料を下げない限りは、生き残れないと思います」
「わかった。海外システム部の鈴木部長に相談して見よう。間に合えば、良いのだが」
事務所長の顔は青ざめていた。
「海外システム部の鈴木部長には、ここに来る直前に、赴任後、来月には、新しい海外システムにバージョンアップするので、よろしく頼むと言われて来ました。その時に、伺った新システムでは、ダマスカスのようなシステムへの対抗策は考えていませんでした。開発スケジュールを大幅に見直すように、鈴木部長にお願いする必要があります」
佐々波が言った。
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