第9話

 もう限界...アタシは朝から机に突っ伏していた。


 ミーナ嬢が何考えてるのか分かんないし、なぜこんなことするのか聞いても「あなたのためです」の一点張りだし...ホントに意味不明...


「アリス、疲れてるみたいだけど大丈夫かい?」


 殿下が心配そうに話し掛けて来るが、アタシは答える気にもならない。


「...」


「なにかあるなら遠慮せずになんでも相談してくれよ?」


 コイツ、人の気も知らんで...


 婚約者の制御くらいちゃんとしとけよ! あぁ腹立つ! いっぺん飛んでみろや!!


「ん?」


 机の中になんか手紙が、


「アリス・オコネル様


 本日の放課後、噴水前広場にてお待ちしております。


 ミーナ・バーネット」


 行きたくねぇ~!!



◇◇◇



「アリス様、わざわざお呼び立てして申し訳ありません。実はですね、」


「あ、あの、ミーナ嬢、じゃなかった、ミーナ様! まずアタシの話を聞いて下さい! 誤解、誤解があると思うんです! なんか色々と噂になってますが、アタシと殿下はなにもありません! 全くもって事実無根です! アタシは殿下のこと何とも思っていませんし、寧ろ付きまとわれて迷惑っていうか、ミーナ様にちゃんと手綱を握って欲しいといいますか!」


 アタシは必死に訴えた。頼む! 通じてくれ!


「そうなんですか、殿下の片思いなんですね?」


 ん? なんかニュアンスが? ま、まあいいか、どうにか伝わったみたいだ。


 アタシがホッとしていると、


「では殿下の婚約者としては両思いになるように応援しなければいけませんね!」


 は!? はぁ!? はあぁ!? いやいやいや、その発想どこから来た!?


 この人の考えが斜め上過ぎてアタシにゃ理解できんぞ!


「だって将来、アリス様が側室となられるにしても、やっぱり両思いの方が良いですもんね!」


 いや、ね! じゃねーよ! なんだその花が咲いたような良い笑顔は!?


 今の話の流れでどこから側室って発想が出てきた!?


 ダメだ、やっぱりこの人話通じないわ...なんか寒気がしてきた。


「あ、殿下だ。じゃアリス様、健闘を祈ります。えいっ!」


「へ?」


 ドッボーーーンッ!


「アリス!  大丈夫か! なにがあった!? もしかして、誰かに落とされたのか!?」


 アタシは噴水に頭から突っ込み、ずぶ濡れになった所を殿下に引き上げてもらった。


 そのまま殿下に保健室までお姫様抱っこで運ばれた。通常なら恥ずかしいと思う所だが、呆然としていたアタシは、そういった感覚も麻痺してたんだと思う。気付いたら保健室に着いていた。


 乾いたタオルで体を拭いても、中々震えが止まらなかったのは、水に濡れたせいだけではないだろうと思っていた...

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