第5話

 その日、ミーナに忍び寄る影があった。


「ミーナ様、よろしいでしょうか?」


「あら影さん、なにか?」


「影さんって...まぁ影なんですが...」


 王太子の婚約者であるミーナにも当然影はついている。もちろん、普段は裏方に徹して護衛対象に話し掛けることなどないのだが...


「さすがに今回の件は看過出来ません。アインハルト殿下に報告しますがよろしいですね?」


「いえいえ、殿下もお忙しいでしょうから、報告は必要ありませんよ。この程度、自分で解決出来ないようじゃ王妃なんて務まらないと思いますし」


「そういう問題じゃないと思うんですが...はぁ、分かりました」


 もちろん、イザベラはこんな会話があったことなど知る由も無い。



◇◇◇



「イザベラ様、もう止めませんか...」


 ついに取巻きは一人になっていた。


「まだよ!  まだ私は終わってない!」


「はあ...次はなにをするんですか!?」


「高い所よ!」


「はっ!?」


「あの女、落ちるのが怖いって言ってたじゃない!?  きっと高所恐怖症なのよ! そうに違いないわ! 恐怖にかられて魔法の発動どころじゃなくなるはずよ!」


 (いやいや誰だって落とされたら怖いって、大丈夫かこの人...あぁやっぱ、あの二人のようにさっさと逃げれば良かった...そう思っても既に後の祭りか...)


「てな訳で屋上よ!」


「どういう訳か分かりませんけど、屋上ですね~! わあ~! 凄く良い景色~!」


「あら!? ミーナさん、ほら見て見て!? 校庭に何か落ちてるわ!?」


「どこですか~!?」


「ほらほら、あれよっ!!」



 ドカッ! ヒュ~~~.....



 (殺ったわ!  遂に殺ってやったわ!!)



 ピョーン...ピョーン....ピョーン...



「あはは~! 見て下さいイザベラ様~! 今度は風魔法でクッション作ってみました~! トランポリンみたいで気持ちいい~!」


「アハハ~楽しそうね~...」


 (今度こそ逃げよう)


 ついに取巻きは一人もいなくなった...



◇◇◇



「全くもう!  役に立たない取巻きだこと! この私を一人にするなんて!  まあいいわ! 今回はお父様におねだりして、S級冒険者を三人も揃えたのだもの! 今度こそミーナも終わりよ! 今頃はきっと」

 


 ドッカーーーン!!!



「なんだあの爆発は!」


「通学路の方だぞ!」


「うわ、酷いな...三人倒れてるぞ。見た所冒険者かな?」


「なんだ、仲間割れか?」


「魔物じゃないだろな...とにかく騎士団に連絡だ!」


「だからなんでこうなるのよ~!」


 イザベラはついに万策尽き果てた...




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