砂漠と餓鬼と塵芥40
二人の後をフラフラと操り人形のように付いてくるパワードスーツ姿のヤーテ。そしてレシドゥオスはその随伴歩兵。
竜王に対峙する四人。だがまだ作戦開始というわけではなかった。
「まだ火力が足りねぇな……ボンボンの車は? 駄目か?」
「建物のエントランスに入れたんだが俺が逃げた後瓦礫に覆われてな、車体は無事だが中に入れん。おっさんの車でどかすのも到底無理だろうな」
「隙間くらいないのか?」
「さぁ? あるかもしれんが……調べてみるか」
「よし、じゃあちょっと見てくるからオドは英雄殿が正気に戻って逃げないように見張っててくれ」
「ものすごく嫌な役目だな」
「そう言うな」
言葉通りのものすごく嫌そうな表情を前面に出しながらも、見張ることにするタコ坊主。ヤーテはスーツ内で、英雄になるんだ……俺は英雄なんだ……とブツブツ呟いている。確かにコレの見張りは嫌な役目だろうと、レシドゥオスは振り返り思った。
「なるほど~ちょーっとこれは厳しいですね〜」
目の前には建物一階エントランスの前に、ずり落ちてきた壁面が扉のように塞いでいた。
「時間があれば重機や爆破解体もできるだろうが、そんな暇は無いだろう」
「んだな。明かり取りの窓があるにはあるが……」
「あの子供なら入れるかもしれんぞ」
「馬鹿言うな、そんな危険なことアクタにさせられるか。他の方法を……」
「僕やるよ!」
「ほら、こうやってタイミングが良いんだか悪いんだか来ちゃうんだから。って、アクタ! 大人しくしてろって──おい、ケガしてんじゃねぇか! 何があった!」
「怒るのも説明も後! 今あの恐竜が目覚めそうなんだ!」
「はぃぃぃ!? いくらなんでも早すぎだろ!」
脇を通る時に見上げたTレックスの目は確かに半開きになっていた。元々そういう仕様だったのかもしれないが、ダー曰く内燃機関だかの駆動音が感じられたため、そう長くはない時間で目覚める可能性があるとのことだった。
「あの恐竜、尻尾からUSSの動力を吸ってるみたいなんだ。だから早いみたい」
「オーマイガー!」
ナビ! だからフラグ立てるなって言ったろ!
“私は受電設備って言ったんですよ”
一緒じゃボケェ!
「だから、時間がないんだ。僕やるよ! これフェイウーさんからの言伝。向こうで準備してるから、こっちの用意が整ったらわかりやすい合図してって。そしたら尻尾爆破するって」
「なんだよそれ、わかり辛ぇ作戦だな。ってかフェイウーがなんで来てんの!? アクタ連れてきたのあの女か!」
「フェイウーさん元ハンターで強いんだって! だから戦うの手伝うって!」
はぃぃぃ⁉ ──驚嘆の声が今度は二人から聞こえた。
「ああ! 予想外な情報の乱れ撃ちで頭がおかしくなりそうだな。とにかく、そんじゃあ、しゃあない──アクタ気を付けろよ。中に入ったら内側から主砲ぶっ放して瓦礫をどけろ。それが作戦開始の合図だ。俺はタコ坊主と少しでもトカゲ野郎の気を引く」
「うん! 頑張る!」
「ボンボンは瓦礫が吹っ飛んだら乗り込んでアクタと砲身が焼き切れるまでトカゲに撃ち続けろ」
「ふん、この僕が子どものお守りか」
「贅沢抜かすな。アクタ、お前が英雄になれよ」
「別にならなくていいよ」
「急に言いやがるようになったなコイツ」
アクタの少し生意気な返しに頭をくしゃっと撫でてやり、その場を後にした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
英雄モドキとタコ坊主の元に戻って来たオジサンはADEN30ミリリボルヴァーカノンの砲口を向ける。狙いは暴君ではなく両サイドに残る建物に向けてだ。Tレックスが放った殲滅レーザーによって生み出された塵芥の靄(もや)は一旦のおさまりを見せ、視界は明瞭とまではいかないが不都合なく狙いをつけられた。
「オド、アクタに会っただろ、話は聞いてるな? 合図はアクタが瓦礫から脱出するために75ミリを撃つ、その発射が合図だ。俺たちは建物を撃って塵埃で煙幕を張る」
「迎撃レーザー対策だな」
「そうだ。少しでもあのレーザーを弱体化する、そしたらすぐに英雄さんの出番だ。そのランチャーの残弾全部あのトカゲの顔面にかましてやれ。そしたらお前は本当の英雄になって凱旋パレードだ!」
「エイユウ……ガイセン……」
「そしたら酒池肉林で女抱き放題だぞ!」
「オデ、ガンバル」
「さぁ来やがれ……え?」
眼前の恐竜王の口がゆっくりと開く。
咆哮を上げるだけかと願いながら見守っていると、ぼんやりとした光が口内に集まっていく。
“間違いなくさっきのレーザーと同じ予兆です!”
「作戦変更ぉ! 頭に全弾集中!」
合図がないままに戦いは再開された。オドの20ミリ、オジサンの30ミリ、ヤーテの40ミリが一斉に吠えた。
「お前が、来やがれ! なんて言うからだろ!」
「うるせぇ黙って弾幕はっとけ! タコなら煙幕張るの得意だろ!」
「先に貴様へ弾幕張るぞ!」
「オデハ! オデハ! エイユウナンダーー!」
次々と着弾していくが、口内の淡い光がピカピカと点滅するだけでまるで効いている様子がない。20ミリ30ミリはもとよりグレネードランチャーでさえ火力不足か──いや、40ミリだけ識別して迎撃していたのだ。しかし、この斉射が合図となったのか、恐竜王の背後で大きな爆発が起きる。フェイウーが動力を吸い上げていた尾に仕掛けた手榴弾であった。さすがの暴竜もこれにはおどろいたのか咆哮を上げ、尻尾を無茶苦茶に振り回し暴れ始めた。当たれば即死級の巨大な瓦礫が飛び散る中、射撃を止め後退する三人。
尻尾をやったな! これで向こうのエネルギー切れが先かこっちの弾切れが先かだな!
“どう考えてもこっちの弾切れが先ですね。といいますかもう切れます”
絶望しそうなこと言わないでくれる!?
やはり現実は非情なもので、毎分1,500発を発射できるカノン砲はものの数十秒で打ち止めとなってしまう。他の二人も似たようなものだった。
暴れる竜は三人に向かって迫ろうと歩みを進め──二度目の爆発──フェイウーのブービートラップが発動した。体勢を崩されこの日初めて脚を折り曲げ膝を地に着ける。
その時そう遠くはない場所で地面を震わす砲音が聞こえた。
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