敵つよつよのダンジョンでも2回目探査の時ってそうでも無いやつ

 

 駆け上がる二人の行手をセキュリティロボが阻む。セキュリティロボのレベルは3となり先程までのガンタン○もどきと違い、全身つるんとしたメタルボディのアンドロイド。

 マネキン、デッサン用のモデル人形、ドラゴンボ○ルの映画に出てくるメタルク○ラ、バーチャ○ァイターのデュラル、色々似た様なキャラは多いが、この多数で攻めてくるのはク○ラの方か。

 わかりやすい武装はなく無手で向かってくるが、手足の先端を鋭く変化させて、斬撃、刺突、を繰り返してくると思えば、ワイヤーのように細く伸ばしてしならせ、鞭の様に叩きつけてくる。

 そして何より脅威になるのはその敏捷性だ。縦横無人にホテルのフロアを壁から天井から攻めてくる。散弾銃の射撃も容易には当たらない。ボディに当たったくらいでは動きは止まらず、ヘッドショットをしなけれは停止させる程の損傷にはなかなか至らない。

 

 

 「強いよぉ! コイツら強いよぉ! なんで、観光リゾートホテルにこんなアンドロイドいるのぉ⁉︎」


 「泣き言言ってんじゃないよ! さっき少しは男見せたかと思えばコレだよ」


 “このアンドロイドは元中国人民解放軍軍事科学院直属武装機甲兵の機獣です。テロリストや反政府勢力、反政府デモの鎮圧用部隊として編成されたようです。

 次11時の方角、2メートルバックステップ、そして真上の天井から来ます”


 だから何でそんなの観光ホテルにいるの⁉︎


 “中国ですからね。こんな人が集まり易いところですから真っ先に配置しますよ。次3時斜め下から刺突来ます”


 だぁぁぁ⁉︎



 情けない叫び声を上げながらも軍用散弾銃AA-12でヘッドショット。

 反対側9時の方角より襲いかかるセキュリティロボを、マリーがウィンチェスターM1892で牽制し動きを阻害する。その隙に錫乃介は振り向き行動を一瞬止めたロボの頭に散弾をお見舞いする。


 電脳の身体強化をフルに起動させ、マリーが援護牽制、錫乃介がトドメを刺すという連携が自然と出来上がっていた。


 錫乃介達が昇る中央階段は上階から襲撃され易いため、空間が狭い通路側に誘き出し仕留めてから階段に戻る、を繰り返しながら戦闘をこなしていたが、地下7階に到達したとき上階より十数体が一度に攻めて来た。



 「不味いね、あんなにいっぺん相手にできないよ」


 「経験豊富に見えて意外にノーマルなオバハンなのね」


 「アタシは純情派なんだよ」


 「ババァの純情なんて需要ねぇよ(はぐれ刑事かな?は通じないからやめておこう)」


 「何言ってんだい。今沢山来てるじゃないか」


 「あ、そうだった」

 

 “東側に非常用階段があります。こちらには手榴弾の置き土産をおいてそちらへ行きましょう”


 アイアイサー! スタコラサッサー!


 「マリー! 俺の優秀な売れ残りだった電脳が回避ルートこっちだって言ってる!」



 マリーに告げながら両手に持った2個の手榴弾のピンを口で噛んで引き抜き、セキュリティが向かってくる上階に投げ、足元にも落として東側非常階段を目指して全力で走る。



 「なんか信用できんだか不安だかわからない電脳だね」


 

 飛びつくセキュリティの眼前を撃ち抜きウィンチェスターのチューブマガジンを空にすると、マリーも錫乃介の後を追う。


 アンドロイドが7階に着く直前で手榴弾は炸裂し、追跡者達を爆炎に巻き込むのを尻目に分厚い鋼鉄製の非常口のドアを開け、セキュリティがいない事を確認するとマリーを先に通し、爆炎を抜けて来たメタル人形に向けてAA-12のフルオートでがなり立てる。



 「ほらよ、もう一個あげるから」

 

 と、床に落とした手榴弾にドライブシュート。

 すぐさま扉を閉めてそこに背中を預けると大きな爆発音。少し扉が浮く感じがしたが、鋼鉄製の扉はそれ以上ビクともしなかった。



 ふぅぅぅ〜


 やっとこ胸に溜まった空気を吐き出し、膝に手を突き深呼吸を二つして頭を下に向ける錫乃介。


 「さ、休憩するにはまだ気が早いよ」



 錫乃介を見下ろしながらウィンチェスターを肩にかけ、口元の片方を引き上げる。



 「もう、心臓も肺もバックンバックンで破れちゃうよ。息継ぎすら出来やしない」


 と錫乃介が泣き言を言って頭を上げようとしたその瞬間だった。

 何かが扉の向こう側から“ズン”と鈍い音を立てて突き出される。

 頭を下げていた錫乃介は、恐る恐る顔だけ振り返って上を見ると、丁度先程まで自分の頭があった場所にレイピアの様な細い刃が、鋼鉄製の扉を貫いていた。



 「ひっ、ひぇぇぇ〜〜⁉︎」


 「言わんこっちゃない。心臓破れるか頭貫かれるか選びな」


 「破れる方にしまーす!」



 ゼェゼェと荒い呼吸をしながら非常階段を駆け上がる。地下3階まで戻って来たところでセキュリティロボの攻勢は止み始めたが、足を止めることなく地上階へと二人は駆け抜けて行った。


 

 「さぁ、戻って来たよ。でも回収屋の本番はこれからだ。今まで見つけた目ぼしいものを取りに行くからね」



 既に回収し尽くされ、無機質になったロビーをカツカツ進み、一旦トレーラーを留めてあるエントランスに向かうマリーと錫乃介。



 「ウッソだろ、ダイハードごっこの後にお宝探しかよ。頭逝ってんだろ回収屋は」


 「否定出来ないねぇ。そういやアンタさっきなんか言ってたね? 最初から間違えてたとか何とか」


 トレーラーに積んであった弾薬を取り出し、チューブマガジンにカチカチとリロードしていくマリー。

 錫乃介もまた愚痴愚痴言いながらもAA-12のドラムマガジンに弾を詰めていき、手持ちの手榴弾を補充していく様はやる気が無いわけではなさそうである。



 「ああ、それだよ、それ。あのな……と、その前に腹ごしらえしようぜ」


 「おっと、アタシとした事が。間違いないねぇ」

 



 …………





 「ほーれ!ほーれ!ほーれ!セキュリティがナンボのもんじゃい! 中国国家安全部?人民解放軍? ザーコザコザコまとめてかかってこいや!」



 錫乃介は躍動していた。

 久しぶりに敵を蹂躙する快感に酔いしれ躍動していた。

 つい先程まで手を焼いていた相手を、いとも簡単に蹴散らせる事に躍動していた。



 補給と休憩を済ませると、再度目ぼしい物を回収をすべくホテルに乗り込み、既に地下6階まで降りて来ていた。

 ジャイロキャノピーのままで。


 階段を無理くりガタガタとジャイロキャノピーで降り、向かい来るセキュリティロボには新型重機関銃『ブローニングM2032』を雨あられと撃ちまくる。時にはリヴォルバーカノン『ADEN Mk 5 サカキカスタム仕様』で微塵に粉砕していた。

 ブローニング重機銃の12.7ミリ弾はいとも簡単にメタル人形を葬り去る。

 リヴォルバーカノンの方は全くもってオーバーキルと言って差し支え無い。一撃で2〜3体は纏めて吹っ飛ばしていたのだから。

 いくら敏捷性が高いと言っても両兵器共に毎分1,500発を超える弾幕を張れるのだから、顔を出した瞬間に粉砕だ。


 

 「そう言うことかい。確かにアンタの言う通りだねぇ」


 「そうそう、建物に入るからって、何でわざわざバイク降りてんの俺⁉︎ って感じ? 

 マリーがトレーラーから降りたの見て俺も釣られてジャノピーから降りたけど、そのまま行きゃあ良かったんだよ。べつに宿泊客がいるわけでも無し、迷惑かけるわけでも無し、注意されるわけでも無し」


 「セキュリティが出てくるのは注意されている様なもんだけどね」


 「たしかーに!」


 

 そう、錫乃介が思い付いたというか、最初から間違えていた、と言っていたのはこの事だった。

 建物に着く=乗り物を降りる、という思考に囚われ白兵戦でこのダンジョンに挑んでしまっていたのだ。

 建物内といっても元は高級リゾートホテル。天井は高く、各階ホールは広く設計され、階を繋ぐ階段は緩めの傾斜で設計されていた。マリーの搭乗するトレーラーは流石に無理があるかもしれないが、錫乃介のジャイロキャノピーなら登り降りするのは容易であった。


 セキュリティロボも武装されているとは言え、基本的には人間相手を想定に設計されている。そのため重機銃はおろか機関砲が出てくるとなす術が無い。

 少し太めのボールペン大の薬莢がチャリンチャリンと、少し細めの500ミリペットボトル大の薬莢がガランガランと辺りに散って行く頃には、行手を阻む敵はもうガラクタ同然に変貌していった。照準と射撃はナビに任せ、錫乃介はトロトロと走らせて行くだけのヌルい仕様のダンジョンになっていた。



 「あ〜スッキリしたぜ!」


 「この階も完全に制圧したね。じゃあ回収するよ」


 そこから先はもはや単なる作業と言っても良かった。

 セキュリティロボは機銃と機関砲で殲滅し、目を付けていた調度品、インテリア、家電製品、カーペットや家具など金目の物を回収してジャイロキャノピーに積み込み、満載したら戻ってマリーのトレーラーに移す。セキュリティロボそのものも、それなりの価格で売れる様なので回収していく。

 

 

 「コイツらいくらで売れるかね?」


 「さぁて、1体500cは固いと思うよ。あらゆるパーツが使えるからね」


 「おっほー! ロボ最強、儲かる儲かる」


 

 こうしてトレーラーに目一杯積み込む頃には、日が暮れるどころか深夜近くなっていた。

 その夜二人はこのホテルの一室で夜を明かした……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る