これは守護者の物語

橋 八四

序章

プロローグ



 『強くなれよ総護。自分が心から大切だと思った何かを護れるように』

  ――――彼はこんな姿の父を初めて見た。




 『「男と男の約束だ」大丈夫、きっと強くなれるさ。なんたってお前は―――――超強い父ちゃんの息子なんだからな』

  ――――ボロボロで、血だらけで、右腕を無くした、満身創痍の姿を。




 『……そんじゃ父ちゃんは、ちょっくら野暮用・・・片付けてくるわ』

  ――――彼はこんな表情の父を初めて見た。




 『―――――――元気でな』

  ――――悲しそうに笑う父の笑顔を。




 それが彼、最上総護もがみそうごの父――――最上慎護もがみしんごとの最後の会話。


 当時突然訪れた父との別れは幼い総護にとって理解・・納得・・もできるものではなかった。

 だが、痛いほど実感・・したことはあった。



 自分に向けられた『お前を殺す』というドス黒い殺意に――震えるほどの恐怖を。

 大事な人が傷つき、失うことに――体に穴が開いてしまったかのような喪失感と深い悲しみを。



 そしてそれらと同等か、それ以上に――――








 

 ――――何もできなかった・・・・・・・・ということが、彼の心を深く傷つけ続けた。








 無力で、ちっぽけで、弱くて泣き虫で、何もできなかった自分が嫌いになった。

 動けなかったのが悔しかった、震えるだけの自分自身が許せなかった。


 総護は自分を責めて、責めて、責めて、責めて、責めて、責めて、責め続けた。その結果食事も喉を通らず、まともに眠ることもできず、なにもやる気が起きなくなってしまった。


 そんな日々が一週間、二週間と続いたある日、総護は祖父である厳十郎げんじゅうろうに殴り飛ばされた。

 



 『いつまで自分責め続けてやがんだぁ餓鬼がっ!!んなもん一〇億年早ぇわ!!』




 総護が生まれて初めて受けた拳骨はとても痛かった。


 『弱い自分が嫌かっ!?何もできなかったことが許せねぇかっ!?なら何で強くなろうとおもわねぇ!?』

 

 だがその言葉は総護の心をこれ以上ないほど奮わせた。


 『人生立ち止まっちまってもいい。後ろ振り返ったっていい。でもなぁ人生って奴ぁ前にしか進・・・・・めねぇんだよ・・・・・・。お前は立ち止まった弱いままでいいのか?また同じことを繰り返すのか?』

 『…た……い』


 もうあんな光景は見たくない。誰かを失うなんてもう嫌だ。だから――――


 『つよく、なりたいっ。つよくなってぼく―――こんどはオレが、オレがだれかをまもってみせるんだっ!!』


 ――――強くなると決めた。大切な人が傷つかずにすむように。

 何よりも――


 『とーちゃんとつよくなるって『やくそく』したもん』

 『……そうか『約束』か。そいつぁ破れねぇな』

 『で、どーやったらつよくなるの?』

 『なぁに簡単なことだ。強くなりたきゃ戦え・・、んで身体鍛えろぉ。安心しろぉ、基礎は叩き込んでやらぁ。あとは実戦あるのみだぁ。あと今から稽古の時きゃあ俺を師匠って呼べよぉ』

 『はいっ、ししょー』

 



 ――――これは一〇年前、幼い最上 総護もがみ そうごの記憶。

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