第2話 ミッション

「ところであなた名前はなんていうの?」


「俺はハルヤ、趣味は....人間観察かなっ、そっちは?」


「私はスミラよ、ただのスミラ、人を凝視して情報を集める趣味はないけれど人との交流は嫌いじゃない」


人間観察を趣味とはいったものの、実際は話す人がいなくて見てることしかできなかったのは過去のお話。


「気になってたんだけどさっきから光ってる物はなに?」


「あぁこれはスマホっていうんだ、俺の街で結構有名なものでさ、写真もとれるんだぜ」


ハルヤはスマホでスミラを撮影してみせた。撮影した時ハルヤは違和感を覚えた。ネットにつながるのだ

 よく見ると右上には4Gと書いてあった。


――――なんで圏外になってないんだ、この世界でもスマホはあるっていうのか?


「この街にも似たようなものがあったりするか?」


「うーん、写真はあるけどここまで鮮明には撮れないし多分ないと思う」


――――おかしいな、まあいいか使えることに越したことないしな


「ただ黙って移動するのもあれだし、街の紹介をしてあげる」


「おおありがたい。できれば世界についても教えてもらえるかい?」


「構わないけど、知ってることだと思うわ」


「まあいいからいいから」


「そう?じゃあまず塔が2つ見えるでしょ、あれは一つは街に水、エネルギーを運んでるの。もう一つはまた後で説明があるわ。この世界は天上がバリアでできていて、その上は謎に包まれているの。これぐらいは知ってるでしょう」


「も、もちろんさ、じょ、常識だろ」


「そうよね、それで街は3つの地域で出来てるの。商業地域、住宅地域、工業地域の3つ。今いるのは商業施設の上空だから、今から住宅地域に行くの」


「ん? なあスミラ、これからどこに連れて行くんだ」


「あなたには私の家に来てもらうわ」


――人生初めての女の子の部屋が異世界??それもそれで悪くないなフフフ....


「なに気持ち悪い顔してるの?そんなに大した家じゃないから期待しないで」


「き、気持ち悪いだって、、意外と毒舌、でも嫌な気分はしないぜ、まさか俺にもマゾ属性が....」


「よくわからないけど、そろそろつくから降りる準備しといて」


スミラはあくまで聞かなかったかのように華麗なスルーをした。

 つい先程新しい性癖を見つけたハルヤにとっては、そんなそっけない態度もご褒美と化していた。


「着いた、ここが私の家」


スミラの家は家と疑いたくなるほどの豪邸。素材はレンガだろうか、周りの建物よりしっかりした作りで入り口もかなり大きい。大半は赤く、所々に魔法で作られた照明がキラキラと輝いていた。


「人の出入りが多いけどこの家でなにかあるのか?」


スミラの家からは特に特徴のない一般人から豪華に着飾った貴族まで様々な人が出入りしており、高級マンションの入り口を連想させる。最も高級マンションになどいったこともないハルヤだったが。

 

「うちの一部は宿舎というかホテルみたいな感じになってて、安い部屋もあれば高い部屋もあるから結構人の出入りが多いの、ハルヤには家の一室に住んでもらうわ」


――――ん? んんんん????? スム???


「今住むって言った?」


「言ったけど」


――――えええええええぇえぇええぇ!!!


ハルヤは驚きを隠せなかった。ついさっき出会って、案内をしてもらえるだけでも驚きなのだがその上住まわしてもらえるというのだから当然である。


「ここまでしてもらって申し訳ないけどなんでここまで親切なんだ?」


ハルヤは気になって聞いてしまった


「それはね、あなたにはあるミッションをしてもらいたいの」


「みっしょん?」


「立ち話もなんだから私の部屋に来て話しましょ」


――――す、スミラの部屋あああ????!!!


驚きながら興奮と緊張がいい具合に混ざっていたせいか絶妙に気持ち悪い顔でニヤついてしまった。スミラが「それ」に気づいたのか少し不安げな顔をしていた。


中に入ると頭上には絵に書いたようなシャンデリアが、右側には客用の階段があった。スミラは左側にある(関係者専用)と書かれた扉を開き、消失点がかけそうなほどの長い廊下に出た。50m走をしたくなる童心を押し殺しながらスミラについていくと、10m進んだあたりにある部屋の前で止まった。


「ここが私の部屋よ、どうぞ入って」


――――おぉ....


生まれてこの方、女子の部屋はもちろん他人の部屋に入る経験がなかったため入った段階で感動してしまった。白が大半を締めた部屋で程よく写真、小物がおいてある。写真の中にはスミラと思われる少女が写っていた。


「そこに座って」


きれいに整理された机を囲み座った。


そしてスミラは話を始めた。



「主なミッションは3つ、この王都の問題となっている跡継ぎ問題の解消、ダンジョン攻略、あと一つは....」


「あと一つは?」


「自分との戦いに勝利すること」


――――え? 自分に勝つ?


当然ハルヤには意味がわからなかった、と思いきやハルヤには心当たりがあった。ハルヤは生まれてずっとひとつのことを続けられず逃げ続けてきた。いつかそのツケが来るとはうすうす感じていたのだ。


「説明をもらってもいいか?流石に理解が追いつかない」


「うん、まず一個目だけどいまの王都には娘しかいなくて早急に婿がほしい状況なの、だから....」


「ちょっとまて、まさか、俺がその王都の娘と結婚するということなのか?」


「うんそういうこと」


ハルヤはこの時点で頭がパンク寸前だった。しかし、それを知ったかのようにスミラが追い打ちをかける


「そ、それでねその相手っていうのが....」


「あ、相手は....?」


「わ、私なの」


ハルヤの意識が飛ぶのにこれ以上の情報は必要なかった


〜 〜 〜 数分後 〜 〜 〜 


「うーん、意識飛んでたのか俺」


「数分だけどね」


ハルヤにとっては異世界に転生したあたりから精一杯だったのだが、美少女との出会い、飛ぶ船に乗船、ミッションを与えられる、終いにはその美少女が自分の婚約者になる少女だったという事実を知らされてはたまったものではない。現在ハルヤは18歳、結婚どころかあまりにも人気がなかったため、付き合うということが身近なことではないのだ。この年で彼女いない歴=年齢のいわゆる非リアである。最近は一人なことに誇りを感じるというこじらせ方をしている。


「つまりスミラは王族ってこと?」


「そういうこと、私両親が幼い頃からいなくてずっと今の王であるフィリアお祖父様のところで育ったの。兄弟もいなくて私一人だったから跡継ぎ問題が出てて、せっかくだから丁度良いんじゃないかってことで、、、ハルヤに無理をいってるのはわかってる、けど..」


――いや、王様ノリかるすぎるだろっ!!!せっかくだから結婚とか..



スミラは文字通り困った顔をしている。始めて名前で読んでもらえたという喜びを押し殺し、スミラへの恩を返すためにも今できることをするしかない、


「俺、大した能力もなくて知識もないけど、救ってもらった恩もあるし頑張ろうと思う」


異世界転生というゼロの状態に、救いの手を差し伸べてくれたスミラへの恩は強い。知り合いでもなければ同じ世界の人間でもない自分をスミラは文句一つ言わず助けてくれたのだ、この恩を返さなければなにが自分にできる?恩返しのため異世界での生活を全て捧げるとハルヤは自分の心に誓った。


「2つ目は単純でダンジョンを攻略すること」


「3つ目は?」


「3つ目は、詳しくはいえないだけど必ずその時は来る、一度じゃないかもしれない、でもそのときはそれを受け止めてほしい」


「なんか、一筋縄ではいかなさそうだけど....やるしかねえな」


異世界で最初で最後かもしれない出会い、なにが起こるかわからない世界で一人で生活はなんとしても避けたい。今はミッションに集中することが最善であろう。


「ところで部屋への案内がまだだったわね、着いてきて」


スミラは部屋を出て、長い廊下の突き当りにある螺旋階段を登り始めた。階段は隅々まで掃除が行き届いており、手すりに至っては反射により自分の顔面が拝める。階段の踏み台部分には赤いカーペットが敷いてある。

 1フロア上がった2階の最西にある部屋に招かれた。


――展開は急でまだ整理がつかない所もあるけど、ようやく始まりなんだな....


 すでに部屋には家具が揃えられており、2畳分ほどある大きなベッド、木でできた机と椅子、壁には風景画など案外現実世界に似た部屋だった。始まりの場所としては、これからが心配になるほど豪華だった。

 ふと振り返るとここまで、ハルヤの待遇があまりにも良すぎている。異常な理解者に一人目からのヒットなどミッションが与えたとはいえどこれほどよくできている世界がどこにあろうか、いやない。


「ダンジョンの詳細についてはまた説明があると思うから、そのつもりでいて」


「了解だ」


「じゃあ、私は自分の部屋の戻るからまた夕食で」


スミラはそういって部屋を後にした


「まずは自分の状況把握だな」


 まずこの世界での最重要事項は、スミラから与えられたミッションの達成。ダンジョンについては詳細を聞いてから決めることにした。問題は..


「俺が超絶美少女と婚約か....」


 ハルヤにとってはこのミッションが一番重要かつ最難関である。女子との会話に不安しかないハルヤにとっては先程までのスミラとの会話でさえ限界だった。そんなハルヤには結婚どころか仲良くすることもハードルが高い。いくら不安があるといっても相手は異世界の超絶美少女、喜びは人並み程度にはあった。

 しかし、不安も理由の一つだが何よりの問題は、ハルヤのタイプにあった。ハルヤは生粋の年上好き、いわゆるお姉さん好きだったのだ。


「なんと言うか、あの安心感に包まれる感じがたまらないんだよなぁ」


中学生時代には行き帰りの道で見かける女性に一目惚れをし、一時期ストーカーまがいなことをしていた。数多い黒歴史のほんの一部の話だ。そんな昔話に浸っていると


”コンコン”


扉をノックする音が聞こえた



 


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