第1話 出会い

――ははぁん、これが異世界ってやつか?


これが晴哉のはじめの感想だった


 夜中に散歩をしていた晴哉、石に躓き転びそうになったところで突然の異世界召喚が行われた。

 突然召喚されたハルヤは、なんとか元の世界に帰ろうと再度躓いてみたり、自分の顔を殴ったりした。いくら試しても無駄だったので諦めた。この異常な楽観主義もハルヤの特徴である。始めの発言もその影響が少なからずある。

 晴哉は状況把握のため、全ての持ち物、周りの状況、これからのことについて検討を始めた。


所持品は散歩のために持っていた水筒一本、スマホ。

所持金は1食分あるかないか、もっとも異世界ではもちろん円が使えないため実質的な一文無し。


 服装は全身ジャージ、動きやすさに間違いはないが防御性に期待はできない。

周辺は商業地域なのか店がたくさんある大通り、住んでいるのは魔族のような化物から人間らしき生き物まで多種多様だ。


 ここで晴哉は絶望的なことに気づく...


――店の文字が読めない....


 異世界の文字は絵文字のようにしか認識できなかった。先程まで希望に満ち溢れていたハルヤの心中は大半が絶望へと変わった。文字が読めないとなるとかなり行動が制限されてしまう。


そんな中、


「おい、兄ちゃん、商品を買わねえなら店の前に立つな!」


ハルヤは歓喜した


「や、やったぜーー言葉は通じるのか!!さっきは少し焦ったがそんなのはどうでも良い、異世界生活頑張るしかねええええええ!!」


 ハルヤは諦めも早ければ、理由もなく切り替えも早い。つまりアホである。このアホさ故にパシリになった回数は数しれず。時には複数人のパシリを掛け持ちしていたこともあった。そのオールマイティさ(パシリにおいて)には自分でも惚れ惚れする。しかし、そんな扱いに不満を持たないはずもなく、不登校気味になっていた。


意味もわからずテンションが高くなっているハルヤを見て店主は軽く引きつつも


「それで?買うのか??」


ハルヤはポケットの中身がないことを見せ、一文無しのことを伝えた。

当然店主から店の前から立ち退きを忠告された


ハルヤはこれといった特徴はなく身長は175センチほど、年齢は18歳、髪は茶色がかった黒髪、スポーツを長年やっていて無駄に筋肉だけはある。見た目に特徴はないが、性格面では極端に悪目立ちしている。情緒が不安定すぎるのだ。不安定すぎるが故、友達は少ない。


 そんなハルヤを支えていたのはスポーツ、ランニング、筋トレは毎日欠かさずやっていた。


 そんな彼でも異世界でジャージとなればいやでも目立つ。周りは皆、髪の色は金から青からと派手な色をしており、服装に関しても鎧やらでそれなりの格好をしている。


 とりあえず散策を始めたハルヤだったが、何しろ今いるのは未開の地どころか異世界なわけで迂闊に進むと迷いそうになるぐらいだった。建物は基本的にレンガ、現代で言うビルらしき高層建造物はほとんどなく、あるのは街にそびえ立っている塔が3つ。近くにある案内図を見ると、街の中心部には噴水らしきイラストがあり、それを囲むように丸く住居が建てられていた。案内図があるとはいえ危ないことに変わりはない。


――これはまずいな、誰かに頼るしかないか....


そんなことを考えていたさなか、一人の女性が目の前を通った。ハルヤは思わず声をかけてしまった。


「なんですか??」


振り返った女性はそういった。

ハルヤは黙ってしまった。特にコミュ症だったわけでもない、かといって話すことがなかったわけでもない、黙った原因はその女性の容姿にあった。美少女過ぎたのだ。


 とてつもなく整った顔、茶色い髪の毛を腰で結び、白い服を彩る。背はハルヤより小さいぐらい。女性というより少女というべきか、見た感じ年齢は17歳ぐらいだろうか。


「あ、えっとあの、遠い街からきたばかりでこの街のことよくわからない、教えてくれませないですか?」


 緊張のあまり自分で聞いていても恥ずかしくなるぐらいひどい質問だった。日本に住み始め――生まれてはや18年、毎日日本語を使っていたとは思えない間違いだった、猿も木から落ちるというよりは登り方を忘れるといったところだろうか。

恥ずかしさで顔面が沸騰しているハルヤに少女はこう答えた。


「よくわからないわ、落ち着くまで待つから、もう少し詳細を教えてくれる?」


呆れたような目をしていたが優しい対応をしてくれた。

落ち着き始めたハルヤはここに来た経緯は言えないと前提してから、無一文なこと、この街ははじめてなこと、行く宛もないことを説明した。


「なるほど、じゃあ今頼れる人もいないってこと?」


ハルヤがうなずくと少女は周りを見渡し、こう返した。


「ここは警備がとても厳重で注目を集めるのは良くないわ、とりあえずついてきて」


――何だこの子優しすぎるだろ....


自分の無能さに失望するとともに少女の優しさに異世界に来ての二度目の感動。もっとも一度目の感動は異世界をなめきっていたとしか思えない感動の仕方だったが。


先程の通りから2本ほど西の通りに移動したところで少女が話を切り出した。


「ここまでこれば大丈夫、行く宛がないならこれからちょっと私に着いてきてもらえる?」


「いいけど、どこへ行くつもりなんだ? 」


「それは来たらわかるから、決定ね、行きましょ」


ハルヤは少女とともに歩き出した


10分ほど歩くとたくさんの馬車が集まっている現代のバスターミナルらしき所についた。

馬は30頭ほどいるだろうか、その馬の後ろには5人ほどが乗れそうな車体がついていた。

馬を操作しているのは先程の通りにもいた人間のような生き物。

 

 馬車のでも乗るのかと思ったハルヤだが、少女は馬車乗り場には目もくれず奥にあるアパートほどの大きさの建物の中へと入った。

建物の中には3台ほど船らしきものがおいてあった。


「こんな所につれてきてなにをするんだ?ちなみに俺は船を見て楽しめるほど船好きじゃないぜ?」


俺はこれまで、将棋、囲碁、美術館巡り、鉄道博物館めぐりあらゆる室内競技を一時間、時には30分で見切ってきた男だ、当然船など興味の欠片もない、更には乗船ではなく見船などもってのほか。

だが、


「なにを勘違いしてるの?これはセルっていう乗り物なんだけどこれからこれに乗って飛ぶのよ」


――飛ぶ....飛ぶうううううう????!!!!



少女から予想不能な単語が出てきたことにハルヤは動揺を隠せなかった。


――いや、待てよ? 現実世界では飛行機があるけど飛ぶ感覚はよくわからないし、飛ぶ体験なんてもうできないかもしれない。


しかし、同時に優越感もあった。人間は最古から空への希望を持ち続けていた、それを自分が一番乗りできるのだ、楽観主義者のハルヤには好都合、ぜひ乗せてくれといわんばかりの顔で乗車する。


「よくわからないけど説明が省けて助かる、行きましょ」


二人が乗車するとセルが動き出した。

セルは翼を広げ鳥の如く飛び立った。セルからは街の全貌が見えた。


「この街には3つの塔があって一つは電気を一つは水を街に送っていて残った一つは王の城となる塔なの」


「へえ、王の塔かー、、俺もいつかは街のピーポーから感謝されるようなキングになってみたいぜ!」


ハルヤは昔からテンションが上がると英語混じりに夢を語りだす癖がある。

そのせいで変人扱いされ友達が激減したことは言うまでもない

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