薄っぺらい人間って何だ

ゴオルド

第1話 ヤンチャしてる子が好きな平坂先生

小説家のかたわら大学の文学部で教鞭をとっている平坂先生は、学生に向かってこう言い放った。

「まじめな学生なんていうのはつまらないね。人間が薄っぺらいんだ。深みのある人間ってのは、まじめに大学に通ったりせず、もっと違うことをしているものさ。留年もしなければ事件も起こさないような学生、僕は好きになれないね」

文学部の学生たちは、黙って聞いていた。誰も反論しようとしない。

私も黙っていた。わざわざ先生に反論して、嫌われても面倒だし、気に入られてもそれはそれで面倒なだけだろう。こういう人間に好かれても嫌われても、良いことはない。


私は文学部じゃなくて心理学部の学生だから、ここではヨソモノだから、こんなことを言われても聞き流せるけれど、文学部の学生はどんな気持ちでこの先生の話を聞いているんだろう。学費返せとか思わないのだろうか。


「僕が某文学賞を受賞したときは驚いたね。だってあの福田先生がまだ受賞してない賞だっていうんだから。福田先生はまじめなのがいけないね。彼が受賞したのは僕より何年後だったかな」

平坂先生はしょっちゅうこの話をする。福田先生は売れっ子作家で、年収は平坂先生より丸が一つ、もしかしたら二つは多い可能性すらあるのに、受賞が先だったというだけで大威張りである。


先生はご自分は深みのある人間だと自負されているようだった。だが、これが深みのある人間の発言なのだろうか。私は正直、先生に深みを感じないのだが。



先日のことだ、図書館で新聞を読んでいたら、平坂先生の新刊の紹介記事が載っていた。「人物描写が薄っぺらい」との作家Tのコメント付きで。少し胸がすっとした。正直に告白すると、ざまあ! という気持ちになった。我ながら器の小さい人間である。


しかし、そもそも薄っぺらいって何だろう。深みのある人間ってなんだ。薄っぺらくない人間って何だ。私はこのテーマについて、考えてみることにした。


<つづく>

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