第33話 街で買い物をしよう 中編
扉がノックされ受付嬢が戸惑いながら入ってきた。
「会長、42番の船をご所望のお客様がまいりました。如何致しましょうか?」
「42番の船だと?王室用に作らせたあれか?どんな客なんだ?」
「小さな男の子とそのお姉様の様ですが・・・交渉に付いて居るのは男の子の方です」
「子供が船を買いに来てるのか?」
「お姉様の方は成人しているように見えますので、多分交渉の仕方を教える為かと・・・」
「成程、どこぞの裕福な商人の跡取りあたりか?でも姉が教育係ってずいぶん吝嗇けちってるな。では定価の倍から始めるか・・・定価までは下げることを許すから、それ以下になるようならまた私に聞きに来い」
「定価の倍って4000金貨からですか?いくら何でも・・・」
「交渉の授業なんだろ?授業料だと思って貰えばいいさ、それに値下げするんだから気にするな」
「解りました」
そう言って出て行った受付嬢が、直ぐに慌てて戻ってきた。
「か・会長!・・・4000金貨で買うそうです」
「はーーぁ?言い値で買うって言ってきたのか?4000金貨だぞ!大型のクルーザーヨットが買える値段だぞ!どこの馬鹿だ!」
俺は、受付に出てその姉弟を見た・・・
「キュ・キュリアさま・・・」
「あらあら、ローレンス会長、久しぶりね!ケミンが、あの中型クルーザーヨットを4000金貨で買うから契約書を作って頂戴!」
「ケ・ケミカリーナ様でいらっしゃたのですか・・・滅相も御座いません、そんな事をしたら私が、国王様からお叱りを受けます。縛り首になるかもしれません。どうかお許しを・・・」
ローレンス会長は、受付のテーブルに頭を付けて平謝りしている。少し震えても居た・・・本当に縛り首を恐れている様だ。
「ケミン此れで解ったでしょ?高過ぎても駄目なのよ!相手は値下げ前提で金額を言ってくるのよ。だからしっかり交渉しないと駄目なの」
「俺は、4000金貨でもあの船は、欲しいけど・・・」
「だーかーらー!そんな値段で私達が買ったら本当にローレンスは、縛り首に為っちゃうの!貴方私・達・を一般市民だと勘違いしてるんじゃないの?私達は一般市民じゃないのよ!もう理解してよ!」
「ローレンスも吹っ掛け過ぎよ。あのサイズの船の相場なら2500金貨でも1000金貨くらい儲けが出るんでしょ?そこから始めてくれたら良かったのよ!」
「申し訳ございません」正に平身低頭で謝っていた。
結局、ローレンス会長に迷惑料込みで2500金貨で購入する事にした。通常の中型クルーザーヨットは1000金貨前後であの船は王室用に最高級で作られているために2000金貨が定価らしかった。
相場って大事なんだねぇ・・・ガクン
次に向かったのは市庁舎の工業組合裁縫課である。受付に仕立て屋の紹介を頼むとローレンス商会が良いと言われた。
「さっき会ったよね?船の取り扱いに服も扱ってるのか?」
「ローレンス商会は、王室御用達の商会なのよ。つまり私達も王室と同様に扱われているのよ!」
マジか・・・参ったなぁ・・・
「まぁ、知らない所を紹介されるよりは良いかもね」
「キュリアはローレンスさんの事を知ってたみたいだけど・・・」
「私だって買い物くらいするわよ!昼間書斎に引篭もってるケミンとは違うの!」
「別に引篭もってるわけじゃ・・・面白い小説が有ったからつい読んでただけで・・・」
「まあいいわ、商業地区に行きましょう。」
クララの案内で商業地区のローレンス商会に向かう。商会の前に着くと立派な建物が有った。やはり王室御用達って儲かるんだろうな。
「さあ入るわよ!」
キュリアの一言で皆ぞろぞろ入店する。
店内は高級ブティックの様な装いでシンプルだが清潔感があり、高級そうな服が揃っていた。宝石も有るようだ、陳列棚に装飾品も飾ってあるな、この服っていくらするんだろう?
「此処の服っていくらするの?」
「此れは高級既製品プレタポルテだから其処迄高くないわよ金貨2枚くらいじゃないかな?」
「え?じゃー市民が着る服っていくらするの?」
「其れはピンからキリまであるわよ!古着だって売ってるもの。新品の平均で小銀貨2枚くらいじゃない?」
「えー?金貨2枚って事は、100倍の値段?高くない?」
「其れは、市民の服から比べたら高いわよ。でも今日は、高級注文服オートクチュールを作りに来たんでしょ?其れから比べたら安いのよ」
マジか注文服って高いんだ・・・
そんな話をしていると奥から人が出てきた。上品そうな奥様だな、年恰好は俺と同じか少し若いか?身長は全然高いけどな!
ブラウンの髪色のロングヘア―が後手に纏められている。菫色の瞳が奇麗だな。服装も店にあるのを使っているのだろうか、高級感のある服だな。
「まあ、キュリア様にクララ様それにベル様もようこそ御出で下さいました」
「キュリア此処に来たことあるの?」
「此処に来た事無いのは、ケミンだけよ!」
そうだったのか・・・ベルの引篭もりを馬鹿に出来ないな・・・
「ケミン君、僕に一寸失礼じゃないかな?」
ベルはムスッとして俺に向かって言った。
「聞こえてたか・・・ゴメン」
「まぁ、貴方がケミカリーナ様、私は、ロザリンドと申しますの。ローレンスの妻です。宜しく御願いします」
「ケミンと呼んで下さい、此方こそ宜しくお願いします。今日は、俺以外の全員の服を作って欲しくて来たのです」
俺はシルクの反物をドサッと出した。
「この反物を使って欲しいのですけど、大丈夫ですか?」
「まぁまぁ、ハナカマキリ産の最高級シルクがこんなに沢山・・・」
此れって最高級シルクだったのか、ハナカマキリ産ってよくわかったな。ロザリンドさんスゲーな!
「こんな生地を見せられたら腕が鳴りますわ!では皆さんの採寸を行いますから此方のお部屋に来てくださいまし」
ロザリンドさんが女性陣を全員別室に案内する。武装解除してくれよ・・・そして直ぐにロザリンドさんは出てきた。
「ケミン様、ご予算はいかほどでしょうか?」
「俺って注文服の相場が判らないんです。」
「そうですね、デザインによって金額が変わりますが・・・生地の持ち込みですから一人につき金貨20枚ほど値引きさせて頂きますわ、最も安いデザインで30金貨程ですから20枚の値引きで10金貨となりますわ」
「成程分かりました、金に糸目を付けませんので、全員が気に入った物を作って頂けますか?」
一度は言ってみたかった。金に糸目をつけない!
「まあ!奥様方は本当に愛されているのですね!家のローレンスにも見習って欲しいわ!」
「いやいや!裸やビキニで家の中をうろうろする者がいるので・・・」
「うふふふ、それは、ヘディ様やラーニャ様の事ですか?あの種族達は、それが普通ですから仕方ないと思いますわ」
ニコニコしながらロザリンドさんは、話している。
「それともう一つお願いしたい事が有るのですが・・・」
「あら何でしょう?私に出来る事なら何でも聞きますわ」
「この宝石を使って指輪を作って欲しいのです。妻達には内緒で・・・出来ますか?」
俺は8個の宝石を取り出す。それぞれの目の色に合わせた石だ
「サプライズですか?うふふ、承りました。さりげなく指のサイズも計っておきますわ」
「宜しくお願いします。」
「本当に奥様方が羨ましいですわ」
「まだ時間が掛かりますから、此方でお待ちいただけますか?」
俺は応接室に案内されて、時間を潰す。暫くして女性陣達は出てきた。
「では出来上がりましたら使いの者を出しますわ。本日はお越し頂き有難う御座いました」
「あそうそう、ローレンスさんにも宜しくお伝えください。今日、一寸迷惑をかけてしまったので」
俺は昼の出来事を話した。
「まあ!其れは家の人の方が悪いですわ!今度良く言っておきます!ケミン様は、お気になさらないで下さいな」
あれ?不味かったかー?
キュリアは、あーあ駄目な子ねぇ。みたいな顔でこっちを見ていた。
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