第9話 五百年後の世界 後編

次の日、俺は、久しぶりに森の中を巡回する。


先ずは、ぽわんと顕現し上空に昇っていく。森全体を見ようと思ったのだ。昇り終わるとぽわんとすずちゃんが現れた。相変わらずのスレンダーボディである。


 「ス・スレンダー・・・まあいいわ。前よりはましね」

おおー、すずちゃんも大人になったな、怒らなくなったぞ?


 「それは、六百年もたてば大人になるわよ・・・って違う!!前から大人!!貴方が酷い事言うからでしょ!!」


「やっぱり怒った・・・今日は言って無いじゃん」

 「今日は言って無いけど!!前は言ってたでしょ!まな板とかブラが必要ないとか・・・」


「自分で言うのかよ・・・ブラ必要ないは言って無いだろ・・・」

 「言って無いけど思ってたでしょ!!」


「そこまで思ってないよ・・・すずちゃんは綺麗で可愛いとは思ってるけど・・・」

 「きれいでかわいい・・・ポッ」

やっと収まったか・・・


「それでさー、この状況すずちゃんは如何思う?」

 俺は眼下を見ながら言った。


 森の中にはいくつかの開拓地が出来ており、人も居る様だ。一番目立つのは本流と支流の合流地点でもう街が出来ている。あそこは、岩ウサギが居るはずだけど・・・


 インセクターの集落も北の方に広がり池の近くまで来ている。山猫族は何処に居るのか分からない。まあ小さいから空から探すのは無理だな。


エルフの集落は、ラヴォージェの周囲ぐるっとツリーハウスがある。

キュリアの方は、村が都市になってた。大きな城もある。


 「如何って、発展してて良いじゃない。彼方此方禿みたいになってるけどぉ ぷぷぷっ」

「禿言うなよ。俺はまだ三十八だから禿げないよ。」


 「何言ってるのよ。あなたこの世界に生まれて千二百年は経ってるのよー、禿げてもおかしくはないわ!」

「それって如何言う基準なんだよ・・・」


 「まあ、人が入れば住み易い様に開拓はするもの、こうなっても仕方ないんじゃないの?」

「まあ、確かにそうか・・・俺が思ってた以上に発展してるから吃驚したんだけど・・・ちょっとあの街に行ってみる?」


 「いいわね、行ってみましょうか!」


街に向かって降りて行く。街の建物は、木造で出来ている。木造のアパートの様な物も有る。まあ、森の中だし木は沢山有るから当たり前であろう。川が町の中心に流れていて船着き場もある。


川が交通網になってるようだな。人間と岩ウサギと山猫族まで居た。皆で一緒に仲良く暮らしてねって確かに言ったけど、本当に皆で暮らしてるとは思わなかったよ・・・


トテトテ歩く山猫には、本当に癒されるな。体は大人だけどね、すずちゃんより・・・言わないでおこう・・・


 「すずちゃんより何よー!また何か言おうとしたわねー!」

「すずちゃんより小さいって・・・でもすずちゃんの方が可愛いよ!」


 「かわいい・・・ポッ」

扱いやすくなった。


「街の中は平和だなー、犯罪も無さそうだし本当に皆仲良く暮らしているみたいだね。」

ゆっくり街の中を移動しながら言った。


 「そうね。この世界って皆おおらかなのかな?私の国も護衛は居るけど戦士は居ないみたい。戦争は今まで無かったわ。」


「戦争の起こる理由が、食糧難だったり、宗教だったりするけど、この世界は食料も沢山あるし、宗教も無いからね、貧富の差も無さそうだしね。戦う理由が無いだろ?」


 「宗教は、有るみたいよ・・・初代国王が精霊だったでしょ、だから精霊が祭られているみたいよ」

俯き恥ずかしそうに言っている。


「ああー!初代国王ってすずちゃんだよねー!それならすずちゃんが女神様なんだ。」

 「女神言わないでよ・・・恥ずかしいじゃない・・・私は神じゃないの!」


「祭られちゃったのなら仕方ないだろ?女・神・さ・ま!」

 「もう!揶揄わないでよー!」

今はもう真赤な顔になっている。顔から湯気が出そうである。


 そんな話をしていたら人が集まってきた。口々に大精霊様とか女神様とか言っている。跪く人まで出てきた。女神様にお会い出来たなどという人も居た。


これはヤバイな・・・もう消えよう・・・ぽしゅっと音がして顕現体が消える。すずちゃんも一緒に消えた。


人々は、一頻り騒いだ後、各々別れていった。顕現体でウロウロするのって不味いな。


俺達は、また上空に昇った。


「参ったね、あんな騒ぎになるとは思わなかったよ。」

 「私達って、めったに人前に出ないから珍しかったんでしょ。」


「違うような気がするけど・・・殆どが女神様って言ってたような・・・」


 「細かい事は気にしないの!」

「俺は森を見て回るけどすずちゃんは如何する?一緒に行く?」


 「もう私は、家でゴロゴロしてるわ!」

「そう言えば、すずちゃんの家って何処にあるの?」


 「私の家なんて無いわよ!作ってないもの!ラヴォージェの木に貴方の家が有るじゃない!そこに居るのよ!」

「それ!俺の家だから!!」


 「貴方の家は、私の家なの!!」

(此の侭、押しかけ女房しちゃおっと♡)


 「兎に角、早く森を回って分身作りなさいよ!そうしたらご飯作ってあげるから!」

「ご飯か・・・全然食べてないよな・・・そう言われると食べたくなるな。でもキッチンないよ?」


 「ラヴォージェに頼むから大丈夫よ。直ぐに作ってくれるわよ。」

(このまま胃袋もガッチリ掴むぞーー頑張れ!私!)


「なんか騙されてる気がするけど・・・まあいいわ。森を回ってくるよ。」

 「いってらっしゃい。ア♡ナ♡タ♡」


「何か勘違いしてないか?」

 「良いのーーー!早く行きなさい!!」

 ぴゅーっと俺は飛んで行った。何怒ってるんだよ・・・怖かったなー。






 俺は森の中を彼方此方見て回った。もう食物連鎖も完璧に整っている。大型の肉食獣も数十頭確認できた。狼の様な動物も群れを成していた。


 人が入っている為か、原生林の様だった森が、だいぶ変わっており、木も適度に間伐されているのか、陽の光も当たるようになっている。それでも森を大事にしているようで、無理な開発はされていない。


 果物も豊富であり、人が採集して行っても、ほとんど減ることはない様だ。ラヴォージェ様様である。


 インセクターの街も凄かった、もう数えられないほどの建造物・・・そして飛び回る蜂族、北西の池にまで達しており池には船着き場もある。支流を使って交易でもしているのだろうか?蜂蜜でも売ってるのかな?食べてみたいなー。


 南の方に行くと少し切り開かれたところがあるが、よく見ると果樹に日差しがあたるようにして、木を間引いた後だった様だ。所謂、果樹園の様になっていた。低木の果樹を集めたのだろう。


最後まで見回ると俺は、ラヴォージェの所に戻ってきた。


「おかえりなさい。ア♡ナ♡タ♡」

キュリアが分身で待っていた。


「なんか変になってないか?キュリアさん!」

 「変じゃない!!それで森は如何だったの?」

俺は森が良くなっていた事を細かく話す。狼の事もインセクターの街の事も。


キュリアは、楽しそうに聞いている。一通り話し終るとキュリアが言った。


 「そろそろ、分身を作りましょうか」

「そうだな、やっと分身が作れるなー、ここまで来るのが長かったな。」




本当に長かった・・・




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