失踪文
バブみ道日丿宮組
お題:いわゆる失踪 制限時間:15分
失踪文
いざ書面に残すとなると、それは遺言になるのだろうか?
大丈夫、事件は起こさない。そうする勇気もまず持たないから。
俺は行方不明者の一人として国のデータに残るかもしれない。そう書くとお前はそんなに偉大なことをしたのかと怒られそうだ。
そう……自分はなにもしてこなかった。
なにもしてこなかったからこそ、残ってるものはない。
兄のように出世することや、妹のように芸能デビューする。父のように会社を作り上げることもしなかった。恋人もいないし、実績もない。ただの社会の糞溜めだ。
俺は毎日劣等感に苛まれてた。
どうしたら挽回できるか、どうしたら成功できるか、どうしたら見返すことができるか。
そんなことばかりを考えてた。
まぁ……こんなことを書いたとしても親族は行方不明届けを出さないのかもしれない。俺と違って家族は忙しい。なにをするにも予約が必要だ。俺がいなくなったのに気づくのに数年必要になるかもしれない。会社は辞めたし、不審に思うやつは誰ひとりとしていない。唯一不動産が絡む可能性はあるが、金の払わない客を客として見ることもないだろう。
唯一年末年始に実家に集まるというイベントはあったが、もう何年も参加してないから問題はない。
正直参加してる家族は眩しくついていけなかった。
誰もが成功の話をして、失敗の話をしない。それはつまりは俺の否定でしかない。そんなイベントに参加したいと思うだろうか? 俺は思わない。
成功できなかった俺が悪い。
学校生活を楽しむだけ楽しみ、受験で苦戦し、就活で失敗をした。
汚点ばかりが目立つ。
だから、俺は外に出ようと思う。
世界を知らない人間は、世界を知るべきだと思った。
国名は書かないでおく、あるとしたら人生が変わったと呼ばれる夢の国と。
もしそこで成功できるようであれば、この手紙は間違いだったと燃やしてくれ。
まぁ……成功できなかったからこそ、今の自分がいるのだから、そんなことは起こり得ないだろう。
最後に、書くことを悩んだが、こう書くことにする。
生まれてこなければよかった、と。
失踪文 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri
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