彼のこうどう

バブみ道日丿宮組

お題:真紅の怒りをまといし殺人 制限時間:15分

彼のこうどう

 それはとても気持ちのいいことだった。

 ただ正当化されはしない。

「どうして……」

 痩せ細った彼女がつぶやく。

「好きだったんだ」

 自分の気持ちを口にする。

「どうして……」

 壊れたおもちゃのように同じ言葉を彼女は口にする。

 手足に繋いでた鎖はもうない。穴を引き締めるということぐらいはできてるので、排便や食事もできてる。あるとすれば、運動不足ということだろう。

「今日は君の好きな肉だよ」

 彼女の眼が大きくなった気がした。

 自分が何を食べさせられるのか理解したのかもしれない。

 とはいえ、彼女に否定できる力はない。生きるためには大人しく"彼”であったものを口にするしかない。何百という肉片だったものももう残りわずか。

 一人の人間を一人の人間が食した。

 これは自然の摂理に従った行動であろう。

 僕はといえば、普通に豚肉やら牛肉を口にしてて、人肉を口にしたことはない。

 誰が彼女が愛した男の肉を食べたいと思うだろうか。彼女に食べられることに名誉すら感じて欲しいものだ。

「大きくなったね」

 優しくお腹を撫でる。

 そこには僕たちの子どもがいる。

「どうして……」

 栄養不足やら、衰弱で母子ともにしなせるわけにはいかない。

 そのためにも、

「先生どうですかね?」

 医者の力は必要だ。

「これで約束のものは本当にくれるのだろうね?」

「当然です」

 医者は彼女の彼氏だったものの妹を溺愛してた。

 僕は手に入れる手伝いをするといって、医者を味方につけた。

「無事生まれたら、支給しますよ」

 彼の家族はもう妹しか残ってない。復讐に向かうものを作らないために仕方ないことであった。

「どうして……」

「その言葉を信じるよ。ふむ……少しまた痩せたのかもしれない。栄養剤を多くして、点滴をしよう」

「大丈夫なんですか?」

「本来であれば、外に出したりするのが理想だが、それはできないのだろう?」

 はいと頷く。

「なら、今言ったことをするしかない」

 医者はそういって彼女の肌に注射針をさし、点滴を開始した。

 小さな穴が彼女に生まれた。

 それは大きな穴よりもとても偉大で、儚い存在。そんな穴も僕のにできたら、とても気持ちがいいのだろう。

 いけないいけない。大きくしてはいけない。少なくとも医者がいる前ですることはできない。

「トイレを借りてもいいかい」

「どうぞ」

 医者が帰るまでの30分。それは彼の解体よりも長いひとときだった。

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彼のこうどう バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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