バブみ道日丿宮組

お題:蓋然性のある霧雨 制限時間:15分

「雨やまないね……」

「雨って言っても霧雨だからな。普通に歩いて帰れるだろう」

 彼らがいるのはとあるデパート。

 学校帰りのデート。その一時に訪れたハプニングのような気象であった。

「そうだけどさ、濡れるのはいやだな。ほら、透けちゃうし?」

 ひらひらと女子学生は袖口を揺らす。

「たいして濡れてないじゃん。俺のほうが濡れてる」

 そういって男子学生はハンカチを取り出して、ワイシャツに押し当てた。

 するとすぐにそれは湿った。

「それってハンカチもともと濡れてただけじゃないの?」

「ズボンが濡れてなかったらそんなこと起きないだろ」

「だって、トイレとかで使うでしょ? 今さっきトイレ言ってたよね? もしかして手洗ってない?」

 首をかしげる女子学生に、

「いや、普通に手洗ったよ。石鹸で丁寧に洗ったよ」

 頬を赤らめながら男子学生は答える。

「えっ……なんで恥ずかしがるの? まさかなんかしてたわけじゃないでしょうね?」

 ジト目で睨む。

「ホモじゃないし、そんなことありえないだろう!」

「じゃぁ、女の子連れ込んでやってたとか?」

 左手で輪っかを作ると、右手の人差し指でその間をいったりきたりさせた。

「か、彼女いるのにそんなことするわけないだろ! するなら、お前とだ」

「そ、そっかぁ。そうだよね」

 うんうんと納得した女子学生は笑みを浮かべる。

「今日は友だちの家に泊まるって言ってきたからさ」

 わかるよねと視線を浴びせた。

「そのわりに身軽じゃないか?」

「君の家に私の下着はあるし、寝間着もあるよね?」

「……そうだな」

「なら、何も持ってかなくていいじゃん。一人暮らしってそこらへんいいよね」

 私もしたいなぁと、女子学生はのびのびと両手を伸ばす。

「浮気を疑ったわけじゃないからね。ただの言葉遊びだから」

「そうかよ。それでどうするんだ」

「どうするって?」

「このままじゃ埒が明かないから濡れるの覚悟で帰るかって」

 うーんと目をつむり考え込む。

「濡れた彼女に興奮すると?」

「まぁしないわけでもないが、本降りになったら傘買わないといけないし」

 相合い傘も悪くはないがとぽつりとつぶやきつつ、

「透けてる彼女を見せるわけもいかないし、いくか」

 彼女の手を掴み、出口へと二人は向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る