虫の思い出

バブみ道日丿宮組

お題:記憶の虫 制限時間:15分

虫の思い出

「ねぇねぇカブトムシがいるよ」

 彼女に呼ばれ、ベランダに向かうとサンダルにカブトムシがついてた。

「夏だな」

「夏だねぇ」

 何度か写真を取ったり、触れてみたりしてもカブトムシは飛ばなかった。怪我してるようでもないので、休んでたのかもしれない。

 それにしても、サンダルが木に見えるなんておちゃめだ。

 シンプルなデザイン、茶色というアクセント。そういうこともあるかもしれない。

 

 ーー数分後。


「ねぇねぇコガネムシがいるよ」

 今度は玄関に呼ばれた。

 そこにはたくさんのコガネムシが転がってた。

「死んでる?」

「わかんなーい。触ってみる?」

 生きてるのか死んでるのか、30匹のコガネムシがいる。

「いや……いいや」

 コガネムシにはいい思い出がない。

 子どもの頃触ったら交通事故にあったり、身内が死んだり、雨が降ったりと不幸が訪れた。俺にとってコガネムシは不幸の象徴だ。そんな存在に触れるなんて禁忌に近い。

「なんでたくさんいるんだろう?」

「誰かが炭酸こぼしたとかかな」

 そうは言ったものの、飲み物が溢れた様子や、食べ物が投げ出された様子もない。

 他の要因はなにかあるだろうかと、見渡してみても何も見つからなかった。

 靴を履いて他の部屋の扉の前を確認してみると、コガネムシはいなかった。俺たちの部屋の前だけに大量のコガネムシがいる。

「……いやな気分だな」

「そうだね。なんか変な気分になるね」

 部屋に入ってこられると困るので、早々に彼女と部屋に戻った。

「ねぇねぇ蜘蛛が歩いてるね」

 すぐに彼女は見つけた。

「いなくないか?」

 見えるよと強く言われても俺は確認できなかった。

 蜘蛛は虫を食べてくれるし、放置でいいのもあって、そんなに気を取らなかった。

 彼らは小さく、俺達は大きい。

 巨人が人間のことを直視しないように、俺たちも虫を直視しない。

 まぁ……彼女は別かもしれない。

 小さい頃からよく昆虫を彼女は捕まえてもってきてくれた。少年のような彼女は今じゃ、可愛い乙女だ。付き合い続けてよかったと思える。

「雨降るって」

 そういって彼女はベランダに向かい窓を閉めた。

 ちなみにカブトムシはもういなくなってたとのことだ。

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虫の思い出 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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