しょうねんとどらごん

 むかしむかし、あるところにおおきなまちがあり、ひとりのしょうねんがおりました。しょうねんはりょうしんを、やまかじでなくし、ひとりぼっちになってしまいました。


「おとうさん、おかあさん」


 しょうねんはおおごえでなきました。たすけてくれるひとはだれもいません。

 しょうねんのちちはかりゅうどで、えものをとらえてはまちにうりにだしていました。

 しょうねんはちちのしごとをいつもみていました。とにかく、きょうをたべていくぶんのおかねをかせがなけれないけません。

 まちはずれに、おおきなはなばたけがありました。まっしろなはながさきみだれて、とてもきれいなはなばたけには、ひともどうぶつもいませんでした。

 しょうねんははなばなのしたに、ちちがつかっていたわなをしかけました。なぜかちかくには、かちかちとおとをたてるきかいがありました。しょうねんはしりませんでしたが、『めとろのーむ』というおんがくかがつかうきかいでした。さっきょくかがおはなばたけで、さっきょくでもしたのでしょうか。めとろのーむは、たえずかちかちとおとをきざんでいます。

 しょうねんははなばたけのほかのばしょにも、わなをしかけました。

 そうしてじかんをつぶし、ゆうがたになってはなばたけをおとずれました。えものにとどめをさすないふをもって、どきどきとしんぞうをはずませています。

 まずさいしょのわなのようすをみます。あいかわらず、めとろーむがかちかちとなりつづけています。そのそばでじたばたともがいているわながいます。しょうねんがしかけたわなはせいこうしたのです。

 わなにあしをはさまれてもがいているえものは、なんとどらごんでした。どらごんのこどもです。たいかくはちょうどしょうねんほどです。みどりいろのからだのりょうよくのつばさをはためかせ、えめらるどぐりーんのひとみをかっとひらき、もがいています。

 どらごん!いったいどれほどのたかねでうれることでしょう。つめやひとみはやみいちでよくとりひきされていますし、どらごんのこどもでしたらあいがんどうぶつとして、きぞくにかわれていることもあります。

 

「がうがう」


 どらごんのこどもがほえました。


「やいにんげん、ひきょうだぞ。かちかちいうひかりものにちかづいたら、このざまだ。こんななわなんか、ちょちょいのちょいなんだからな。ぼくのかあさんやとうさんがかけつけたら、おまえなんかやつざきになってあついあついほのおにやかれてしまんだからな」

「……、」


 しょうねんはだまってないふをふりあげました。さすとしたらやわらかそうなおなかです。どらごんはかたいうろこにおおわれていますが、ゆいいつ、ちめいしょうになりそうなのはおなかでしょう。

 どらごんのこどものひとみに、きょうふがやどりました。

 しょうねんだって、ほいではありません。けれど、このどらごんのこをころせば、いちねんはゆうゆうくらせるくいぶちがかせげるのです。

 しょうねんはないふをぐっとにぎり、どらごんのこどもにむかってとっしんします。どらごんのこどもはつぶらなひとみをぎゅっとつぶりました。


 ぱらり。

 どらごんのこどもはおそるおそるひとみをあけました。おなかはぶじでした。

 しょうねんがきったのは、わなのなわだったのです。どらごんのこどもはじゆうのみとなりました。


「がうがう。おまえ―――」

「ぼくにはできない。なにもわるくないいきもののいのちをうばうなんて」


 しょうねんはぼろぼろとなきました。おなかがすいていました。のどもかわきました。それでもめのまえのどらごんのこどものいのちをうばうことは、どうしてもできなかったのです。ちちがいきていたら、『あまちゃん』だとおこられるでしょう。ちちのことをおもいだして、もっとしょうねんはかなしくなってしまいました。


「がうがう。ちょっとまってろ」


 どらごんのこどもはこいちじかん、すがたをけすと、くだものをいくつもつばさにのせてかえってきました。しょうねんにしょくりょうをとってきてくれたようです。

 しょうねんはくだものをくちにしました。みずみずしくあまく、ほうじゅんなかおり。いきかえるここちでした。まちのいちばではたべたことがありません。


「がうがう。ぼくがすんでるもりのきのたかいところにはえてる。ぼくたち、にくしょくだからたべないけど、しょうどうぶつがよくたべてる」

「ありが、とう」

「がうがう。おまえ、かしこいせんたくをした。ぼくのおとうさんとおかあさん、どうくつにすんでいて、このあたりのしぜんかいのとっぷ。ぼくをころしていたら、おまえとおまえのまちはひのうみにつつまれていたとおもう。あらそうひつようがないもの、あらそうひつようがない。あのなわをしかけたのもおまえで、あのなわをといたのもおまえなら、これが『まっちぽんぷ』ってやつなのかもしれないけど、ぼくがおまえにたすけられたのはじじつ。がうがう!」

 

 どらごんのこどもはたからかにほえました。はなばたけのおくのおく、どうくつのむこうからちからづよいほうこうがかえってきます。


「がうがう。どらごんはうけたおん、れいせつをわすれない。さてにんげんのこども、おまえはどうする?」




 しょうねんはどらごんがおしえてくれたくだものをうり、おとなになり、やがてろうじんになり、てんじゅをまっとうしました。どらごんとしんこうをもち、しょうがいにわたってどらごんとゆうこうかんけいをむすんできたかれは、ちょうちょうとしてもかつやくし、まちのへいわをまもりつづけました。

 ひとびとがかれをわすれても、すうひゃくねんのときをいきるどらごんは、かれのことをずっとずっとおぼえていることでしょう。

 めでたしめでたし。

 がう!




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泉野帳は「花」「メトロノーム」「最初の罠」を使って創作するんだ!

ジャンルは「童話」だよ!頑張ってね!

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