いつでもおいで
ここは現世とは異なる時空。異なる空間。ヒトの言葉では異界とでもいいましょうか。
鐘の音が空のかなたから響くと、小さなお客様が今日もやってまいりました。
「うう、ひぐっ」
あれあれかわいそうに。両手で目をこすってはごみが入ってしまいます。
わたくしは相棒を引き連れて、お客様の前に姿を現しました。二人そろって一礼すると、小さなお客様は泣くのを忘れてぽかんと口を開けました。玉乗りピエロと、顔なしの巨人が現れたからには、小さなお客様はもう悲しい涙を流すことはありますまい。流すのは笑い涙だけでございましょう。
さてさて余興をご覧に入れましょう。
まずはわたくしが相棒の巨人の周りを玉に乗りながらくるくると回ります。一周,二周、三週とするうちにどんどんと加速していきます。ビュンビュン、ビュンビュン。風ですら、わたくしのスピードにはついていけますまい。
小さなお客様はわたくしの玉さばきに釘付けです。
徐々にスピードを落とし、玉から降ります。優雅に一礼すると、小さなお客様はまだまだ見入っておりました。
次は相棒の番です。相棒はお手玉が得意です。目がないのに、物が見えているのかは、わたしも不思議なところではございます。相棒はまずは玉を、そしてジャグリングし、最後は火の玉を無数に操ります。回せないものはないという話でございます。
小さなお子様の瞳には煌々と燃え盛る炎が映っておりました。
気を良くした我々は、寸劇に入ります。我々も日夜人間界の勉強をしていて、「しょーとこんと」というのが今のトレンドです。
相棒がおかしな動きをするたびに、わたしが相棒の頭がある空間をどつきます。小さなお客様はここでもぽかんとしておりました。
さてさて、そろそろでしょうか。小さなお客様に余興を披露してから、どれほどたったでしょうか。わたくしはすっかり紫に暮れた夜空に浮かぶ時計を見上げます。時計の針はゆっくりと一周します。
すると、鐘がボーン、ボーンと鳴りました。お客様はわたくしたちを名残惜しそうに見ながら、どこかへと帰っていきます。どこかはわたくしたちもわかりませんが、また会えることは知っていますので、悲しくはありません。
坊や。おやすみなさい。また会うときまで。
お題:「紫色」「時間」「おかしな物語」
ジャンル:「指定なし」
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