6
「まだ殺し合わないのですか?」
「だから!出来る訳ないだろ!」
卓也は鋭く言い返した。
「なら今日も誰かしら死ぬかもしれませんね」
四人はスピーカーの方を見つめて何も言えずにいた。
四人は昨日から何も食べていない。
空腹とどうすることも出来ないこの状況にいらいらし始めた。
「もうどうすんのよ」
京子は髪がぼさぼさになるほど頭を掻きむしった。
「本当に、殺し合わないと助からないのかな……」
そう明が言うと、卓也はきつい目つきで明を睨んだ。
「狂ったのか?じゃあお前出来るのかよ」
「じゃあどうしたらいいんだよ!」
「わかんねえよ!わかんねえけど――」
明は遮るようにして言った。
「ていうか、お前が京吾の動画をあんなふうに加工するからこんなことになったんだろ」
「加工?どういうこと?」
史帆は明の言ったことが理解できなかった。
卓也は史帆を無視して明に続けた。
「お前が京吾の動画をうまいこと編集して、あいつをエースから引きずり下ろしたいって言うから協力したんじゃないか」
「編集?」
京子も意味が分からないといったように聞いた。
「じゃああの動画は嘘だったってこと?」
「ああそうだよ。こいつが作ったフェイク動画だよ」
明は卓也を指さしながら言った。
「なに罪を俺だけに擦り付けようとしてるんだよ。動画を撮ったのはお前だろ?お前が主犯じゃねえか」
「はあ?」
明は立ち上がった。
「俺はあんなふうに加工してくれとは言ってない。お前が勝手にやったことだろ?」
「勝手に?」
卓也も立ち上がった。明は続けた。
「お前が動画編集なんて変な趣味してるって聞いたからお前に頼んだだけだ」
「変だと?」
卓也は明の胸倉をぐっと掴んだ。
「お前もう一回言ってみろ!」
明は止まらない。
「お前の夢、ユーチューバーだってな。そんな夢叶うわけねえじゃん。気持ち悪い陰キャみたいな夢見てんじゃねえよ」
卓也はついに明に手を出した。卓也は右ストレートを明の左頬にくらわした。殴られた明は反動で顔が右に傾き、その場に倒れた。
「いってえな」
明はすぐに立ち上がり卓也に顔面目掛けて拳を振った。
その拳は卓也の鼻に当たったらしく、鼻から血が流れている。
史帆と京子はどうすることも出来ずにリビングの扉の前で二人から少し距離を取って立ち尽くしていた。
「もうやめて!」
京子は半泣きになりながら叫んだが、頭に血が上った二人の耳には届かない。
すると卓也はキッチンへ行き、何かを持って戻って来た。
「殺してやるよ」
卓也は右手に持った包丁を突き出した。
「やってみろよ」
明はそれに全く驚いておらず、むしろ一歩前に出た。
体格的には野球をしている明の方が断然大きいが、刃物には勝てるはずがない。
「卓也やめて――!」
「うるさい!」
史帆の叫びをすぐに遮った。
「お前はいつもそうだよな。自分が一番じゃないと気が済まない。実力じゃ京吾に敵わないから汚い手を使ってあいつからエースの座を奪った。あいつが死ぬことでな」
明の脳裏にはあの日のことが蘇った。
京吾が自殺する前日の、放課後の教室。
――明、お前か?俺の動画を撮ったの。
――だったらなんだよ。
――ならあの動画は消して、嘘だと言ってくれ。俺だけじゃなくて、家族までもクラスの親たちから白い目で見られてる。
――お前が死ねば公表してやってもいいぜ。あの動画が嘘だと知られたら、お前は野球部に戻ってくるんだろ?冗談じゃない。エースは俺だ。
――……わかった。約束だよ。
そして次の日、京吾は部室で首を吊った
――本当に死んだよあいつ。
明は動揺していた。
すると卓也がある動画を見せてきた。
そこには明が京吾に向かって死ねと言っている場面が映されていた。
「本当に死んじゃったね」
「消せよ」
卓也は、にやりと笑い、ふっと言ってその場を去った。
「お前の動画、ばらまいてやるよ。いいように編集して、お前が殺したことにしてな」
卓也は目を見開き、不敵な笑みを浮かべていた。
明が震えていた。
「させねーよ。俺がお前を殺してやる」
京子が割って入った。
「もういいじゃん!過去のことなんだから、二人とも仲直りして!」
「もう無理だよ」
明だった。
「こいつを生かしてたら、俺が殺人犯にされちまう」
京子はこわばった表情で言った。
「今、どちらかが殺したら、それこそ本当の殺人だよ」
すると何の前触れもなく卓也が明目掛けて包丁を振り下ろした。
「うわああ!」
明はとっさに出して左腕を切られた。
傷が深いよで前腕が数秒で真っ赤に染まった。
続けて二回目を卓也が降り下ろした時、明は右手で卓也の包丁を持つ右手首を掴み、足をかけて卓也を転ばせた。その衝撃で手から包丁が投げ出された。明は仰向けに寝転ぶ卓也の腹に乗り、近くに落ちた包丁を拾い上げた。
「明やめて!」
「くそやろう」
明は何の迷いもなく右から左へと包丁を振った。
刃は卓也の両目を切り裂いた。
「うぎゃああああ!」
足をばたつかせて両手で両目を抑えた。
明は立ち上がり、うずくまる明卓也を転がし、うつぶせになった腰のところにまたがり、包丁を振り下ろした。
「うっ……」
明が手を離すと包丁は卓也の背中に突き刺さったままだった。
卓也は大量の血を流しながら、虫の息になっていた。そして数秒も立たずに目を閉じ、呼吸もしなくなった。
「は、ははは……はははははっ!勝った!」
明は高笑いした。
やがて笑いが収まると、またがっている卓也を見下ろしてぶるっと身震いした。
「どうしよう……」
正気に戻った明は何かを訴えるような目で、京子と史帆を見上げた。
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