その日の夜~拓都の場合~

 



 算用子拓都は悩んでいた。

 机に座りながらスマホをイジリ、時折ノートにメモを取る。そんな事を繰り返して何処くらい経っただろう。晩御飯を食べ終えた後からと考えると、実に数時間はこんな状態だった。


 理由は簡単明白。明日のデートプランの計画に他ならない。



「えっと、やっぱ買い物だよな? となれば駅前……いやいや? 駅前なんてフェリシティの家の近くだろ? どうせなら別の場所? いや別の場所ってどこだよ? くぅ、女の子の喜びそうな場所なんて思いつかねー!」


「意識して考えた事もなかったわ。えっと、良い場所良い場所……はっ! そうだ! 奴に聞いてみよう! 起きてるよな? …………もしもしあらた? 今大丈夫か?」



 そんな成す術のない拓都が、すがる様に電話を掛けた相手。その人の名前は近藤新。

 小学校からの付き合いで、中学校・高校も同じ。しかし、だからと言ってわざわざ電話をした訳じゃない。



 ≪おう。どうした拓都? 俺の声が寂しくなったか?≫

「ちげぇよ。ちょっと聞きたい事があって」


 ≪聞きたい事?≫

「情報通のお前なら知ってると思ってな?」



 この近藤新という人物。実は人間関係に裏話等々のゴシップが大好物。更には新聞部の部長も務めるなど、その情報量には拓都も信頼を置いている。


 そんな彼なら、女子受け間違いなしのスポット情報なんかもお手の物なのでは? と、白羽の矢を立てたのだ



 ―――それから数十分―――


 ……結果的に拓都の予想は見事的中したと言って良い。

 ノートにびっしりと書かれたデートプランは、新の意見を参考に考えたのだろう。その表情はどこか満足げに見える。



「わかった。色々とサンキューな?」

 ≪いや。こんなの朝飯前だ≫


「流石の情報量、感服したわ」

 ≪ふっ、有難き幸せ。あっ、でもな拓都? あくまで情報だからな? その日によって行きたい場所も違うだろうし、そういう時は臨機応変にな?≫


「そうだな。臨機応変にか……」

 ≪あと、焦るなよ?≫


「ん? 焦る?」

 ≪大体分かるだろ? 遊びに行って即キスやらそれ以上は……≫


「なっ! んな事するかっ!」

 ≪そうだとは思うが一応な? それにしても女の子と遊びに行くのが初めてとは≫


「なんだよ悪いか?」

 ≪いや? まぁ相手は外国からの転校生だ。文化の違いにも色々気を付けろよ?≫


「そうだよな。その辺は……って、おい! 俺相手の事は一言も……」

 ≪幸運を祈る。じゃあな?≫


「おっ、おい新……って切りやがった。てか、マジでなんなんだ? フェリシティのフェの字も出してないぞ? なのにあいつ……どこまで知ってやがるんだ? ちょっと恐ろしいんだが?」


「まっ、まぁでもおかげでめぼしい場所は分かったな。あとは明日の状況次第」


「……状況ねぇ。って、俺何考えてんだよ。あぁ、新の奴が変な事言うから変に意識しちまうじゃねぇか。まだ手も握った事ないっての」


「ん? 手? 2人きり……デート……手を繋ぐ……あれ? 付き合ってるなら当たり前?」


「待て待て? 手を繋いでデート? フェリシティと? そりゃそどうせなら繋ぎたいけど……」


「ヤバイ。想像するだけで顔があっちぃ! けどフェリシティなら、もしかしてそれ以上も……やべぇやべぇ……くぅ!!」



 こうして様々な妄想ぬ胸を躍らせながら……算用子拓都の1日は、終わりを告げる。



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