ソーサラーワンダー−怪物怪襲−

月影澪央

始まりの物語

第1話 はじまり

 3月 春休み

 普通の中学生 風晴かぜはる凛空りくは特に何か特技があるわけでもなく、モテるわけでもない、本当に普通の少年。

 一応サッカー部だから走ることは得意なはず。多分。


 春休みは宿題も特にないし、楽だけど部活はある。

 夕方まで部活して、そこから自転車で帰る。俺の学校からかなり遠いから他の人より時間かかる。うちの学校では遠いほうだと思う。


 やっと家についた。いつもなら付いている電気が付いてない。


「出かけてるのか……?」


 自転車を止める。なんか変な匂いがする。今まで嗅いだことない匂い。



 ドアを開けると床が赤かった。血だ。

 そして妹の凛香りんかが倒れていた。

 凛香に駆け寄ると両親も倒れていた。

 そしてその奥には、


「か、怪物だ……」


 見た目が人だけど人じゃない。いかにも怪物、という何かがいた。

 家族をこんなにしたのはこいつだ。多分。

 その怪物は母さんが大事にしていたネックレスを取ろうとしていた。

 

 怪物は俺に気付いたようだった。

 ネックレスを取るためにこんな事をしたのか……


「許せない」


 俺はネックレスを取った。


「お前、これが欲しいのか? ならついてこい!」


 そう言って俺は家を出た。何の意味があるのかわからない。でも走った。



 怪物は普通に追ってきた。思ったより速かった。俺は近くの林に逃げ込んだ。

 このネックレスに何があるんだ……

 確かに他のネックレスとは違う気がした。でも気のせいだと思ってた。



 行き止まりだ……完全に詰んだ。


 振り向くとさっきの怪物に加えて何人か増えている。

 増えた仲間らしき怪物(怪物というより人っぽい)は俺に近寄ってきた。


「それを私に渡しなさい。そうすれば命は助けてやる」

「嫌だ。これは何なんだ」

「それを言えば渡してくれるのかい?」

「考える」

「それは我々の祖先でもあるとても強いお方の魂の欠片。我々も含め、その欠片を潰し、取り込めば99%の確率で死が待ち受けている。お前が助かるにはそれを私に渡すしかない。さっさと渡しなさい」


 怪物が他の強い怪物の魂を欲しがるってどういうことなのか。渡したらこいつらは何をするのか。

 俺は渡してはいけない気がした。それに、家族があんなになった以上、俺は死んだっていいと思った。正気ではない。確実に。

 俺はその欠片を潰して取り込んだ。体を白色の光が包んだ。

 俺の中で何かが暴れている気がする。俺はそれを何とか抑え込んだ。



「な、なんで平気なのよ……」


 怪物のリーダー的な奴がそう言って近づいてきた。

 そんなの、俺にわかるわけ……


 さらに近づいてくる……殺される……終わった。そう思った。

 俺の中の何かが対抗しようとしている。

 そこに何かが俺と怪物の間に入ってきた。


 顔を上げると、さっきまでいたはずの怪物たちが光となっていた。


「君の家族、守れなくてごめん」


 その人が俺には『漆黒の勇者』に見えた。

 同い年くらいの男の子。そんな子があの怪物を……?

 そして怪物がいた方に向かってこう言った


「どうすんの? 俺は殺さないよ、こいつのこと。というか殺せない。殺すならお前がやれ。俺の前でできるなら。な?」


 誰に言ったのかわからなかった。でもすぐにわかった。

 奥から誰かが来た。こっちは多分大人。仲間なのか……?

 この人に言ったのか………?なら、


 -殺すならお前がやれ-


 俺、殺される?せっかく生きてたのに………これが運命なのか?



 だんだん意識が遠のいていく感じがした。



 ◇◇◇


 この小説を開いて頂き、一話を読んでいただきありがとうございます。

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