教会裁判2
「女神ハーティルティア様が生み出した『
「よってリリアーナ・フォン・ライオネル嬢は『女神教会』より破門処分とします」
「そして、リリアーナ嬢への監督責任として、ライオネル公爵および夫人は爵位を返上していただきます」
「っ!?」
リリス様の言葉に、私は驚きを隠せませんでした。
千年前に女神ハーティルティア様がこの世界を統治するようになってから死刑制度は全世界で廃止されました。
なので、リリアーナ様が死刑になる事は無いと確信していましたが、『破門』まで言い渡されるとは思いませんでした。
『女神教会』から破門を言い渡された者は、両手の甲に焼印を押されます。
焼印には魔導を阻害する術式が含まれていて、一度焼印を押されてしまうと自身のマナによってその部位に魔導阻害の術式が発動し続ける為、通常の治癒魔導では消すことができません。
そして、手の甲を見ればその者が破門されたことが一目でわかるようになっています。
破門された者は『女神様』の加護を失った人間と見做され、二度と『女神教会』に入ることも許されません。
そして、この世界は
そんな世界で『女神教会』を破門された人間は、二度と仕事に就くこともできず、お店に行っても品物を売ってもらう事すらできないのです。
世界中の人に軽蔑されながら生きていくのは、ある意味『死』よりも辛いことと言えるかもしれません。
過去には破門された人がわざと
もちろん、娘が破門されたということが知られれば、その家族も普通に生きていくことはできません。
「・・では騎士のみなさん、リリアーナ嬢とライオネル公爵夫妻を・・」
「お、おまちください!!」
そこまで考えを巡らせると、私はリリアーナ様達を連れて行くように騎士へ指示するリリス様を必死で制止しました。
「アリアさん、何か不服がおありですか?」
いきなり指示を邪魔されたリリス様は、私に対して鋭い視線を向けてきました。
私はリリス様の殺気が籠った視線に心が押しつぶされそうになりますが、何とか自分を奮い立たせながら口を開きました。
「た、確かにリリアーナ様の罪は許されるものではありません!ですが、こうして無事にバレッタも戻ってきたのです!私もこの件についてリリアーナ様を責めるつもりはありません!ですから、リリアーナ様を破門にするのはどうかご容赦ください!!」
「・・・アリアさん、この場合結果ではなく
リリス様に言い寄る私をシエラ様が窘めます。
その言葉にも言いようのない圧を感じました。
『神帝国』、ひいては全人類の序列第二位と三位と言えるリリス様とシエラ様に凄まれて先程から足が小刻みに震えてしまっていますが、私は何とか耐えながら真剣な目を向け続けます。
「・・まあまあ、シエラ、リリス。落ち着きなさい」
その様子を見かねたハーティルティア様が困った表情をしながらお二人を窘めると、私に向けられた圧が一気に霧散しました。
「はっ・・はっ・・・」
そして、その瞬間私は不敬とは思いながらもその場でへたり込んでしまいました。
「アリアちゃんは被害者なのよ?そんな二人がかりで睨んだら可哀そうでしょ」
ハーティルティア様の言葉にリリス様とシエラ様が気まずそうな表情を向けました。
「・・アリアちゃんはリリアーナさんが破門されてほしくないのよね?」
ハーティルティア様の言葉に私はコクコクと必死で頷きます。
「ハーティルティア様、恐れながら『女神様』への不敬はこの世界で最も重い罪です。いくら被害者が良いとはいってもその罪がなくなることはありません」
「太古の昔より『女神様』への不敬は破門と決まっております。こればっかりは覆りません!」
リリス様の言葉に私は絶望しました。
リリアーナ様は既に青を越えて顔を真っ白にさせながら震えています。
それはもう、目を離したらすぐにでも身投げをしそうな勢いです。
「お願いします!ハーティルティア様!リリアーナ様は十分に反省されている筈です!どうか!どうか御慈悲を!!」
私は必死に訴えました。
「アリアさん!いきなりハーティルティア様に直訴するなんて許されませんよ!!それに、これ以上教会裁判の判決に異議を唱えるのでしたら、貴女も不敬罪になりますよ!!」
それでも私はふるふると首を横に振りました。
「まあまあリリス・・落ち着いて?アリアちゃんもこう言ってる事だし、許してあげましょう?」
「だいたい私は『破門』という制度だって反対していると言っているでしょう?」
「シエラちゃんも焼印なんて酷いと思うでしょ?」
「・・・っ!?それは・・そうですが」
シエラ様の様子からして、焼印に対して何か思う所があったのでしょうか。
もしかしたら、シエラ様は今回の判決を本心では良く思っていないかもしれません。
「ですが、それでは示しがつきません!!!」
「リリス、私は『白銀薔薇のバレッタ』を正式にアリアちゃんへ譲渡したのよ?その本人が許すといっているのならいいじゃない」
「そういうわけにはいきません!!」
しかし、リリス様は全く引く様子がありませんでした。
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