教会裁判
・・・・・。
・・・・・・・・。
「まさか、こんなに短期間でこの場所に再び来ることになるなんて思いもしませんでした・・」
私達は『イルティア・レ・イーレ』の謁見の間でハーティルティア様が入室するのを待ちます。
謁見の間は前回と異なり、『女神教会』の幹部や『聖騎士団』が集まっていて、物々しい雰囲気になっています。
パパァァァ!!
「『神聖リーフィア神帝国』、ハーティルティア女神帝陛下の御成!」
そんな中、ラッパの音が鳴り響くと共にハーティルティア様、シエラ様、リリス様が入室してきました。
同時に、謁見の間にいる全員が『最敬礼』を行います。
「みなさん、楽にしてください」
ハーティルティア様の言葉で、全員が『最敬礼』から普通の跪いた姿勢になりました。
「では、これより『女神教会』の教義に則り、ハーティルティア女神帝陛下の御前にて『教会裁判』を行います」
「・・裁きを受けるものはこちらに」
リリス様の口上で裁判が始まると、口に布を噛まされて後ろ手に拘束されたリリアーナ様とライオネル侯爵夫妻が入室してきました。
「むぐぅ!うむうっ!」
謁見の間中央で騎士に無理やり膝をつかされたリリアーナ様は必死に何かを訴えますが、猿轡のせいで何を言っているか聞き取れません。
「「・・・・・」」
一方、ライオネル侯爵夫妻は顔を青ざめさせながら無言で俯いています。
「では、参考人のアリア・フォン・レゾニア公爵は宣誓をお願いします」
リリス様の言葉を聞いて、私達は右手を顔の横に上げました。
これは『女神様』の前でいかなる虚偽も行わないという誓いの意味を持っていて、もし誓いを破った場合には『女神様』への不敬と見做されて、『女神教会』から裁きを受けることになるそうです。
私の宣誓を確認すると、シエラ様が巻かれた紙を両手で伸ばして掲げた後、記された内容を朗読し始めました。
「此度、リリアーナ・フォン・ライオネル侯爵令嬢はレゾニア公爵が身につける『
「は・・はい」
この場で虚偽は許されないので、私は静かに肯定しました。
「むうー!」
直後、私の言葉に反応してリリアーナ様が再びもがき始めました。
「黙りなさい!」
「っ!?」
しかし、リリス様の一喝でリリアーナ様は押し黙りました。
そのあと、ハーティルティア様がリリアーナ様の方を向いて口を開きました。
「リリアーナさん・・それにアリアちゃんにも、せっかくの機会だし、『白銀薔薇のバレッタ』が生まれた経緯を説明するわ」
ハーティルティア様の言葉へ、その場にいる全員が静かに耳を傾けました。
「今から遠い昔の話になるわ。私達が『邪神デスティウルス』を討伐した後、『邪神』だったナラトスと、それに加担して当時の『魔導帝国オルテアガ』を襲った事件に罪悪感を拭いきれなかった二人は、全ての栄誉を固辞して『ヨークスカ』に隠居したわ」
「そして、庶民としてひっそりと暮らした二人はその後子宝にも恵まれて、末永く幸せに暮らしたわ」
「だけど、そんな二人の生活も、永遠には続かなかった」
「ニアールは勇者として世界に貢献したけど、あくまで普通の女の子。だから、生物としての寿命は必ず訪れる」
「そして、ニアール達が隠居してから数十年が経って、とうとうニアールとお別れする時がやってきたわ」
「私やシエラ、リリスはニアールの危篤の知らせを聞いて、最期を看取る為に『ヨークスカ』を訪れたわ」
「その時、既に勇者パーティーとして戦ったニアールの幼馴染で生涯のライバルだったクラリスは亡くなっていたわ」
「だから、ニアールは『いままで色々あいつと勝負して負け続けたけど、寿命だけはあいつに勝ったわ、『
ハーティルティア様の言葉を聞くシエラ様とリリス様は、遠い過去を懐かしんでいるようでした。
「そして、その直後、ナラトスが私達に『ニアールと共に逝きたい。だから私を滅ぼしてほしい』と頼んできたのよ」
「「「っ!?」」」
ハーティルティア様の言葉に全員が瞠目しました。
何故なら、本来ハーティルティア様と同じく長い寿命を持つ筈のナラトス様が何故亡くなってしまったのかは、今まで公になっていなかったからです。
「もちろん、ニアールの子供や孫達、私達だって反対したわ」
「けど、悠久の時を生きなければならないナラトスは、愛する人を失うことが耐えられなかった」
「その気持ちは、私もよくわかったわ」
同じく永遠と言える命を持つハーティルティア様も、この千年で沢山の別れを味わった筈です。
ですから、その言葉には有無を言わせないような説得力がありました。
「だから、結局頼みを断りきれなかった私は、皆に看取られる中、この手でナラトスを滅ぼしたのよ」
「その時に、ニアールの娘に形見として『メルティーナ』を譲る為に、『白銀薔薇のバレッタ』を生み出したという訳なの」
「普通の人間はナラトスみたいに『収納魔導』が使えないからね」
「・・私のバレッタにそんな物語があったなんて、知りませんでした」
「つまり、『白銀薔薇のバレッタ』は、ナラトスがニアールさんやその子孫達を心から愛した証という訳です」
リリス様がハーティルティア様の話を締めくくった後、リリアーナ様へ非難の眼差しを向けました。
「リリアーナ公爵令嬢、あなたはそのように歴史ある『
「うう・・・」
リリアーナ様は涙を流しながら、リリス様の言葉に頷きました。
その様子を見たリリス様は、リリアーナ様達を拘束している騎士に目配せをしました。
すると、三人を押さえつけていた騎士達が拘束を外し始めました。
「・・では、罪状が明らかとなったところで、ハーティルティア様の忠実な
リリス様の口上に、一同がごくりと息を呑みました。
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