第二章 生徒会編
『政治学科』との合同授業
はじめての実機講習から数週間が経った頃。
私が演習場を破壊した直後は、私の事を恐れるような視線や言葉を多く感じましたが、レオン様やマリア様がフォローしてくれたお蔭で表立ったものは無くなりました。
エカテリーナやユイちゃんも相変わらず仲良くしてくれて、ひとまずは学園生活も落ち着きを取り戻し始めています。
ただ、私が演習場を破壊したせいで、復旧が終わるまでは実機講習が出来なくなってしまいました。
それによって生じた授業の空きは、『政治学科』の授業を合同で受ける事で埋められる形となりました。
そして、今日が初の『政治学科』との合同授業の日となります。
私は『政治学科』の学舎前にいつものメンバーと集まると、そのまま教室へと向かいました。
ガラララ・・。
しばらくして教室の前に到着した私達は入口となる手動の引き戸を開けました。
すると、教室にいた生徒達の視線が一斉に集まりました。
因みに、『政治学科』の教室にある机も雛壇状に配置されていて、『騎士科』の教室と構造的な差はあまりありません。
ですが、『政治学科』の教室の方が歴史を感じさせる古さがあります。
「っ!!ご覧になって!!レオンハルト殿下よ!!」
「ああ、殿下と一緒に授業を受けれるなんて!役得ですわ!」
「ああ・・なんてお美しい顔ですの・・!!」
「アーヴィン様もいらっしゃいますわ!!」
教室に入った瞬間、レオン様達を発見した『政治学科』の女生徒達が色めき始めました。
「さあ、行こうか」
私は突き刺さる視線を感じながらもレオン様達の最後尾をおずおずとついていきます。
ガッ!
ですがその時、私の足が誰かに引っ掛けられました。
「きゃっ!?」
足を掛けられてバランスを崩した私は、そのまま前に倒れそうになります。
ギュッ・・。
しかし、誰かに手を引いてもらった事で何とか転倒は免れました。
「あ・・ありがとうございます!」
私は気まずさから顔を伏せたままですが、ひとまず助けてくれた方に向かって礼を言いました。
「いいや、アリア嬢の手を握れたんだ。こっちが礼を言わないとね」
私は聞き覚えのある声に目を向けました。
「っ!?」
そこには、私の手を引きながらウィンクをするディートリヒ殿下がいました。
パシッ!
私が思わぬ人物に助けられた事で呆然としていると、側にいたレオン様がディートリヒ殿下の手を叩きました。
「もうアリアの手を握っている必要はないだろ?」
「ふうん?レオンハルト、君もいたのか」
ディートリヒ殿下は叩かれた手の甲をさすりながら、剣呑な表情をレオン様へ向けました。
「白々しい・・。アリアは
「なら、
「なんだと?」
「あ、あの!!?レオン様?ディートリヒ殿下?」
不穏な空気を感じた私は、慌てて二人に声をかけます。
「聞きまして?あの令嬢、殿下の事を『レオン様』と呼んでいましてよ?」
「まあ!なんて図々しい人ですの!?」
「よく見ればあの黒髪・・例の『邪神令嬢』でなくて?」
「まあ、何という・・っ!?」
直後、レオン様とディートリヒ殿下が私の陰口を言い始めた女生徒達へ非難の目を向けました。
すると、彼女達は二人の王子に睨まれて気まずくなったのか、すぐに口を噤みました。
それにしても、私は『邪神令嬢』と呼ばれているようです。
・・正直かなりショックです。
スッ・・。
「っ!?」
私がショックで俯いていると、ディートリヒ殿下が突然私の顎を指で掬い上げました。
「アリア嬢はレオンハルトと随分親しくなったようだね?羨ましいな」
「じゃあ、俺のことも『ディー』と呼んでくれる?」
ガシッ!
「彼女へ勝手に触れるな。そんなこと、アリアが良いと言うわけないだろう!」
いつもレオン様は私に好き放題触れてきますが・・。
「それを決めるのはアリア嬢、いや
「ディートリヒ!」
「別に良いじゃないか。君だってアリアの事を呼び捨てで呼んでいるだろう?」
「ちっ・・・」
「はぁ、アリアは厄介な人に好かれやすいですわね」
一連の様子を見ていたエカテリーナが呆れたように溜息をつきました。
「あのお・・とりあえず、座りませんか?」
「・・それもそうですわね」
ユイちゃんの言葉で、私たちは教室の隅にあった空きスペースに集まって座ることになりました。
「じゃあ俺はここに座らせてもらおう」
私の隣にレオン様が座るのはいつもの事ですが、今日は何故かレオン様の反対側にディートリヒ殿下までやってきました。
「おい、ディートリヒ!さっき君は向こうの席に座っていただろう!!」
「はんっ!別に席が決まっているわけじゃないんだから移動したって構わないだろ?」
「・・・くっ!」
声をあげたいのは私の方です。
二か国の王子に挟まれて気が気じゃないので、できれば遠慮してほしいのですが・・・。
「あの邪神令嬢・・ディートリヒ殿下とレオンハルト殿下に挟まれて何様のつもりかしら!!」
「調子にのっていますわ!!」
案の定、嫉妬の視線が私にグサグサと突き刺さります。
「アリア、よかったら一緒に教科書を見ないか?」
「それには及ばない、お生憎様『政治学科』の教科書もちゃんと支給されているからね」
キラキラとした二人の笑顔に挟まれて、私は更に居た堪れなくなります。
「はあ・・皆さん座られましたな、では授業を始めますよ」
しかし、初老の教師が呆れたような声を出して授業を開始してしまったので、もう席を移動することもできなくなってしまいました。
私は仕方なく両端のプレッシャーを感じながらその日の授業を受け続けました。
・・・・・ギリッ!!
その時、私は自分の事でいっぱいいっぱいでした。
ですから、リリアーナ様が私に鋭い嫉妬の視線を向け続けていたことなんて、全く気づかなかったのです。
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