4日目
今日は居候から同棲になった記念すべき日なのだが、彼女は朝から出かけてしまった。昼には戻るそうだが、正直寂しかったりしている。もうこの段階で彼女に依存している僕は、これから先どうなってしまうのだろう。
「折角幸せの尻尾を掴んだんだし、もう離さなければ良い。それより今できる事をしよう」
と声に出して宣言し、洗濯物を乾す作業を始める。
最低限の配慮としてお互いの下着などは個々で洗っている。勿論僕の下着は僕が乾すし、彼女の下着は彼女が乾す。
ただ、服やズボンは全部僕が乾している。彼女が乾すのが下手過ぎるのだ。彼女は全く日当たりを考えずに乾すから、乾くまでに時間があるかかる。
だから洗濯物を乾すのは僕の役割だ。
なんて頭の中で誰かに解説していると、彼女のズボンのポケットに、固形物の感触がした。心の中で彼女に謝りつつ探ってみると、折り畳まれたプリントのようだった。
それが洗濯で濡れて強固になっている。
「なんのプリントだこれ…後で見よ」
前よりも一人分多くなった服を洗濯竿に乾し先程の紙をみる。
こういう固まったプリントはもう一度濡らせば開いたりするのかな。
本は濡らして、24時間凍らせて、重しを置いて矯正すればある程度は元に戻る。
いや、プリントも本も同じ紙だ。
やってみよう。
「えーとまず、霧吹きで濡らして、ドライヤーで乾かせば読むくらいできるようになるだろ」
作業する事およそ5分。
「よし、できた。これは地方新聞?切り取られたみたいだな。内容は…2000年。女子高生が車に撥ねられた。名前は…月本陽奈!? この記事が本当だとすれば彼女はもう死んでいるという事か? まさかそんなわけ無いよな」
でもそれから彼女が帰ってくるまでの間何をしていたのか覚えていない。酷いショックを受けたことで、記憶の一部が消去されてしまったようだ。気付けば僕はベッドの中にいて、彼女は座って僕を心配そうに見ていた。
「大丈夫? 具合悪い?」
そう問いかける彼女に僕は、
「大丈夫。それより、君は何をしたい? 時間がないのだろ」
と、聞き返してしまった。でも彼女は首を横に振った。
「あれを見てしまったんだね…私はただ、あなたと一緒にいたい。それだけで満足だよ」
「そんな…それじゃ、君は後悔してしまう。絶対に」
また彼女は首を横に振る。
「ううん。私の願いはもう叶ったの。もう私は満足。これ以上幸せを願ったらバチが当たっちゃう」
「そんな……折角幸せになれたのに。すぐに幸せは僕から離れていってしまう。もう、こんな世界、うんざりだ……」
僕の震えた言葉に彼女はまた、首を横に振った。
「違うよ。私はあなたの中にいるでしょ? いつだって思い出せる。いつだって一緒でいられる。いつだって幸せを分かち合える。人はそうやって、お別れも耐え忍んできたの。幽霊とはいえ、多分まだここにいるよ。これからでも思い出は重ねられる」
「……そうだね。ごめん。泣きたいのは君の筈なのに。でも一つだけ、手遅れになってしまう前に伝えておくよ。僕を、絶望の底から引っ張り上げてくれたのは他ならない君だ。本当にありがとう。好きだよ、陽奈乃」
僕が告げた言葉に、彼女は首を縦に振った。
「ううん私こそ、あなたといられて楽しかった。でも、今日はゆっくり休もう?」
「うん。本当にごめん」
そして僕は微睡みに呑み込まれていった。
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